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【なろう版】魔国の勇者  作者: マルコ
魔王降臨祭

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26:軟弱者

 リリュアの冷静な解説を聞き終えると、リオスはふっと口元を歪めた。


「へえ……じゃあ、そこのド()アノスとかいう家ってさ」


 ――一拍、わざとらしく間違えた名前を口にする。


「奴隷をこうして、持ちきれない量の荷物を持たせて、

 落としただけで蹴り飛ばそうとするような――野蛮な家なんだね」


 静かな声だった。

 だが、言葉の端々に、少年らしからぬ皮肉の切っ先が滲んでいた。


「へえ。なるほど、勉強になったよ」


 わざとらしく感心したように頷いてみせる。


 その瞬間、少女の顔が真っ赤になった。


「ドレアノスよ!! ド・レ・ア・ノ・ス!!

 アンタみたいな下賤な人間に、家名を間違えられるなんて――!!」


 癇癪を起こしたように喚くその姿に、リオスは小さく肩をすくめる。


「……だって、知らないし。興味もないから」


 淡々としたその言葉が、少女の怒気をさらに煽った。


「もう……もう我慢できないッ!!」


 怒号と共に、ドレアノス家の娘が――脚をさすっていた取り巻きの少年の尻を、怒り任せに蹴り飛ばした。


「なにをモタモタしてるのよ、このポンコツッ!

 そっちのアンタも! 一緒にあの小生意気なガキを痛めつけてやりなさい!!」


 ぐいと指差されたもうひとりの少年――

 オーガ族の少年が無駄に大きな体を揺らして、にやりと笑う。


「へっへ、良いのかよ? 坊っちゃんみたいな顔してるけど、泣かせてもしらねーぜ?」


 その隣、串を刺されたもう一人の少年。

 こちらはオーク族で、鼻先が少し潰れ気味で、腕は太い。


「お嬢様の命令だしな。遠慮はしねえぞ、人間坊主」


 ふたりの少年は、たしかに同年代か少し上程度――

 だが、種族的な筋力差と、体格の差が歴然としていた。


 周囲に集まっていた野次馬たちが、顔を見合わせながら小声を漏らす。


「……相手、人間の男の子だよな?」

「いや、同い年くらいでも……オーガとオークじゃ、勝負にならないって……」

「しかもふたりがかりだろ? あの子……絶対にやばい……」


 広場の空気が、緊張と予感で満ちていく。


「おらぁっ! こっち来いや、人間坊主ッ!」

「泣かしてやっからよォッ!!」


 オーガとオークの少年が、吠えるようにして同時に飛びかかってくる。

 その足取りは力強いが、体重に任せた直線的な動き――そして、隙だらけだった。


「……え、

 おっそ!」


 リオスは、思わず目を見開いた。

 予想を大きく下回る速度に、逆に戸惑ったように口を開いてしまう。


 フィノアが、慌てた声をあげる。


「リオス様、お手を出しになるのは構いませんが――

 くれぐれも、本気はお控えくださいませ!」


 その声音には、どこか切実な響きがあった。


「相手は、リュシア様やシエラ様とは違い、ただの普通の子供でございますから――!」


 その言葉に、横のシエラが反応する。


「……フィノア。それは、まるで……

 わたくしが“普通ではない”と仰っているように聞こえますわね?」


 ふくれっ面で、頬をぷいと横に向ける。


「シエラ様、そういう意図ではなく――」

「ふんっ、べつに気にしてませんけれど?」


 言葉と裏腹に、シエラの頬が膨れている。


 一方、リオスは前に出ながら、そっと肩を回す。


「わかったよ、手加減ね……都会の子は軟弱なの?

 とりあえず、倒すんじゃなくて転ばせるくらいにしとくよ」


 目の前、ふたりの巨体が目前に迫る――

 だが、その瞳は、なおも冷静だった。


「じゃあ、まずは――」


 リオスは、一歩前に出て、勢いそのまま突っ込んできたオークの腹に――

 拳を、ほんの軽く叩き込んだ。


「っぐぅえっ……!?」


 鈍く低い声を漏らし、オークの少年がその場にうずくまった。

 腹を押さえて地面に転がり、のたうち回る。


「えっ……今、そんなに強く殴ってないんだけど……?」


 リオスは、ポカンとした顔で、自分の拳を見下ろした。


 だが、その間にも――

 もう一人、オーガの少年が、歯を食いしばって踏み込んでくる。


「こんの……クソがきがぁぁぁ!!」


 その突進に、リオスはひょいと身体をひねり――

 オーガの足首に合わせて、足払いを一閃。


 その瞬間、バキィッという不穏な音が空気を裂いた。


「ぎゃああああああああっっ!!」


 オーガの少年が、悲鳴を上げながら、石畳の上に崩れ落ちる。

 右足が不自然な角度に折れ曲がっていた。


 広場の空気が、一気に凍りつく。


 それでもリオスは、首を傾げながらぽつりとつぶやいた。


「……都会っ子って、やっぱり軟弱だな」


 その言葉が、静かに――だが鋭く、空気を突き刺した。


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