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【なろう版】魔国の勇者  作者: マルコ
魔王降臨祭

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24/67

23:ふたりきりじゃ、ありませんからっ

 扉が開かれると、そこには荘厳な玄関ホールが広がっていた。


 磨き上げられた黒石の床、天井には魔導燈が浮かび、淡い紫光が静かに照らしている。

 正面の大階段の前には、すでに整列を終えた使用人たちの姿。

 給仕、侍女、衛士――その全てが、深く一礼した。


「おかえりなさいませ!」


 揃った声が、空間に反響する。


 初めて訪れたはずの屋敷。

 けれど、その歓迎にはよそよそしさは一切なかった。

 まるで長い旅路から戻った家族を迎えるかのような、温かい出迎えだった。


 そして、その列の先頭。

 一歩前に進み出たのは――黒と銀の礼服に身を包んだ、長身の老魔族だった。


「若様方、ご帰館を心よりお慶び申し上げます」


 低く、威厳に満ちた声が静かに響く。


 その者の額からは、漆黒の竜角がなめらかな弧を描いて伸びていた。

 年老いた身とは思えぬほど背筋は真っ直ぐに伸び、肩甲骨のあたりからは、折り畳まれた竜翼が静かにたたずんでいる。


「本邸の管理を預かっております、家令ザヴィールと申します。

 本日より、当邸におけるおふたりの滞在が快適なものとなるよう、誠心誠意、努めさせていただきます」


 その姿に、リオスは自然と背筋を正し、静かに頷いた。

 隣のシエラもまた、少し緊張しながらも、丁寧に頭を下げる。


(……竜人族、だっけ? 見るの、これがはじめてかも)


 圧倒されるような気配に包まれながらも、リオスの胸には、不思議と安堵の念が芽生えていた。

 

 挨拶を終えたリオスは、ふと邸内を見回した。

 出迎えの列に、見慣れた姉の姿がないことに、胸の奥がもやりとした。


「……あれ? 姉上は?」


 その問いに、ザヴィールは穏やかに微笑みながら、ゆるやかに首を横に振る。


「リュシア様は、まだ幼年学校よりお戻りになっておりません。

 生徒会のお仕事があるとのことで、帰邸は夕刻になる見込みです」

「……そっか」


 どこか納得しきれないように、リオスは小さく頷いた。

 祭典前とはいえ、真っ先に出迎えてくれると信じていた姉の姿がないことが、少しだけ寂しかった。


 ザヴィールは恭しく頭を下げながら、静かに口を開いた。


「バルトロメイ様とメルヴィラ様は、祭典の式次第に関わる最終打ち合わせのため、王城にてご挨拶に向かわれております。

 お戻りは夜になる予定とのこと。こちらには、控室のご用意がございます」


 そう告げるザヴィールの声は穏やかで、整えられた出迎えの空気に自然と溶け込んでいた。


 リオスはひとつ頷き、シエラとともに控室へと案内される。


 通された部屋は、別邸とは思えぬほどの格式がありながらも、どこか居心地のよい落ち着きを湛えていた。

 天井には繊細な彫刻が施され、魔導燈の柔光が空間を優しく照らしている。


 だが、リオスは扉が閉まるのを待たずに、小さくため息を吐いた。


「……休めって言われても、ずっと馬車の中だったしな。

 あんまり座ってばかりだと、逆に疲れちゃうっていうか……」


 その呟きに、椅子に腰を下ろしかけていたシエラがぴたりと動きを止めた。


「でしたら――わたくしが、王都をご案内いたしますわ」


 すっと立ち上がり、胸を張るその姿には、どこか誇らしげな自信が漂っている。


「この都は、わたくしにとって“庭”のようなものですもの。

 リオス様を退屈させたりはいたしませんわ」

「ほんと? 助かる!」


 リオスが嬉しそうに応じたそのとき――


「おやおや、ふたりでお出かけ?」


 柔らかな声が背後からかかる。振り返ると、セラが微笑みながら近づいてきていた。


「せっかくだし、かあ様も一緒に――」


 リオスが誘いかけると、セラはそっと首を振る。


「ありがとう。でも私はしばらく、荷ほどきや贈答品の整理があるの。

 今日は、ふたりで仲良く“視察”してきてちょうだい」


 軽やかなその言葉に、リオスは「うん」と頷く。


 一方、隣のシエラは、はっとしたように目を見開いた。


「ふ、ふたりきり……というわけではありませんわよ。

 フィノア様も、リリュアもご一緒ですし……そ、それに――」


 視線を泳がせながらも、断る素振りは見せない。


 むしろ、その頬にほんのりと浮かんだ紅が、答えを物語っていた。


 やがて、準備を整えたリオスたちが玄関へ戻ると、ザヴィールが再び姿を現す。


「本日中の外出でございましたら、護衛はフィノアとリリュア殿にお任せする形で問題ございません。

 王都内の治安は当局の目も光っておりますゆえ、どうぞ安心してお出かけくださいませ」


 セラも横から補足するように言った。


「ふたりとも、十分強いから、安心ね。

 でも、裏道とかには入らないようにね」

「ふふ、ご安心なさいませ」


 シエラが堂々と胸を張る。


「リオス様とわたくしが揃っていて、そこらのチンピラ相手に手こずるわけがありませんもの」

「……いや、流石に油断しすぎじゃない?」


 リオスが苦笑しながら肩をすくめると、フィノアがそっとリリュアと視線を交わし、くすりと微笑んだ。


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