表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【なろう版】魔国の勇者  作者: マルコ
幼年学校1年 :王都捕物帳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/114

買い物日和、護衛は大物

 夏の日差しが、王都の石畳を白く焼き尽くそうとしていた。

 陽炎が揺らめく。

 通りにはむっとする熱気と、人々の汗の匂いが満ちていた。

 湿気が肌に絡みつく。

 誰もが日陰を探して足早になる中、幼年学校の一団が商業地区の大通りを進んでいた。


 先頭を行くのは、少女たちだ。


 濃い橙色のウェーブの先で、小さな花弁のような飾りがきらめく、アルラウネのフリージア。

 金色の瞳と、硬質な緑の鱗に覆われた長身――リザードマンのカイサ。

 そして頭上では、翼を広げたハーピーのユルルが低空を滑空していた。


 華やかな彼女たちの後ろを、男子たちが続く。

 リオス、ヴィーゼル、カゲトラ。

 魔国幼年学校の男子生徒3人だ。


 両手いっぱいの紙袋や包みを抱えさせられている。

 額に汗が滲む。

 シャツが背中に張り付いて、布が熱を逃がさない。


「あー、暑いですー。地上の熱気が上がってきますー」


 間延びした声が、頭上から落ちてきた。

 ユルルが翼をぱたぱたとあおぎ、生温い風を男子たちへ送る。

 風圧で、ヴィーゼルの茶髪が乱れた。


「文句言うなら降りて歩けや、鳥女。こっちは干物になりそうなんやぞ」


 ヴィーゼルが胡散臭い細目をさらに細め、恨めしげに見上げる。

 その手には、少女たちが買い食いした串焼きのゴミ袋まで握らされていた。


「だってぇ、降りると羽根が蒸れるんですよぉ。それに下界は人口密度が高すぎます」

「なら、もっと高く飛んだらいいんじゃない?」


 リオスが純粋な疑問を投げる。

 大量の荷物を抱えながらも、その足取りは崩れない。


「上空だと、みんなとの会話に入れないじゃないですか。……それに、ちゃんと監視してないと、荷物を落とされそうですしね」


 ユルルは空中で器用に身をひねり、監視員みたいに目を光らせた。


「落とさん。……で、なんで俺らがこんな目に遭っとるんや」


 ヴィーゼルが嘆息混じりに零す。

 その隣で、岩のような巨体を揺らして歩くカゲトラが、短く返した。


「鍛錬にはなる」


 強面の顔より、両手に提げたファンシーな柄の紙袋の方が、威圧感を妙に際立たせている。

 実際、荷物の重さと量は、鍛錬になると言えばなる。


「カゲトラくんは真面目ですねぇ。ヴィーゼルくんも見習ってくださいよ」


 フリージアが振り返り、くすくすと笑った。

 動くたび、甘い花の香りが漂う。

 通りの汗臭さを、一瞬だけ塗り替えた。


「真面目とかの問題やないで。わいは『なんで今日、このメンツが選ばれたんか』って話をしとるんや」


 ヴィーゼルが口を尖らせる。

 クラスには他にも男子生徒はいる。

 なのに、なぜこの3人なのか。


 カイサが申し訳なさそうに尻尾を揺らし、振り返った。

 爬虫類特有の無機質な瞳なのに、声色には気遣いが滲む。


「すまないな。本来なら私たちだけで済ませるつもりだったのだが……最近、この辺りは、どうにもきな臭くてな」


 カイサの言葉に、リオスは視線を巡らせた。

 店先には妙な警戒が漂う。

 路地裏には、それらを獲物として狙うような鋭い視線がいくつも潜んでいる。


「女の子だけで歩くのは危険そうだね。……事情は理解するよ」


 リオスは頷いた。

 グリムボーン領だけじゃない。

 王都にまで治安の悪化が広がっているなら、護衛が必要なのは道理だった。

 それでも、リオス自身は侍従のフィノアを先に帰らせている。

 友人同士の買い物に、侍従を連れ回すわけにもいかない。


「でも、人選の基準がわからないな。他にも適任はいただろう?」

「ふふふ、それはですねぇ!」


 ユルルが空中でくるりと宙返りし、リオスの目の前へ舞い降りた。

 トン、と軽やかに石畳を踏む。


「厳正なる審査の結果、あなたたちが『最適』だと判断されたからです!」


 ユルルはビシッとヴィーゼルを指差した。


「まずはヴィーゼルくん! 採用理由は『顔が胡散臭いから』!」

「……は?」


 ヴィーゼルの飄々とした笑顔が固まった。

 首から下げた商売繁盛のお守りが、カチャリと鳴る。


「胡散臭いって、クラスメイトに酷ない!? これでも、好青年のつもりやねんけど?」

「そこです! その『何を考えてるかわからない笑顔』!

 あと『裏社会に通じてそうな雰囲気』! これなら、変な男も声をかけるのをためらいます!」


 フリージアが補足する。


「毒を持って毒を制す、というやつですね。ヴィーゼルさんの隣にいれば、並の詐欺師やゴロツキは逃げ出しますから」

「誰が毒やねん。……ま、舐められんというのは商売の基本やけどな」


 ヴィーゼルは不服そうに鼻を鳴らした。

 けれど、完全には否定しなかった。


「次はカゲトラくん!」


 ユルルが猫獣人の顔を見上げる。


「理由は『顔が怖いから』! あと『無口だから』!」


 カゲトラの眉間に、深いしわが刻まれた。

 ただでさえ厳つい顔面が、さらに凶悪な相貌へと変わる。


「……顔は、生まれつきだ」

「それがいいんです! 隣に立ってるだけで『あ、関わったら殺される』って思わせるオーラ!

 最高です! 魔除けの効果は抜群ですよ!」

「魔除けか……」


 カゲトラは小さく息を吐き、それ以上は言わなかった。

 どうやら、その評価は気に入ったらしい。


「そして最後、リオスくん!」


 ユルルの視線がリオスに向く。

 リオスは表情を変えず、首をかしげた。

 胡散臭い、顔が怖い。

 なら、自分は何と言われるのか。


「理由は『純粋に強いから』!」

「……ふむ」


 リオスは短く相槌を打った。

 ようやくまともな理由だ。

 最後は実力が物を言う。


「……と、『ハーピー、アルラウネ、リザードマンの私たちなら、手を出してこないだろう』という安心感からです!」

「……なんだって?」


 リオスの足が止まった。


 整った眉が、少し寄る。


「なんだい、それは」

「え? だってリオスくん、最近『女癖が悪い』って噂、すごいじゃないですか」


 ユルルが悪びれもせず言った。


「あっちこっちで女性に声をかけてるとか、夜な夜な街へ繰り出してるとか」

「……心外だな」


 リオスは小さく息を吐いた。

 根も葉もない噂――と言い切る前に、思い当たることがいくつか浮かぶ。


 まず、ティナを囲う名目で村を作ったこと。

 これは否定しようがない。


 次に、ネリア達サキュバスとのあれこれ。

 それから、街中で人助けをすることもあるが、助けた相手が女性であることが多かった。


「僕はただ、困っている人に手を貸しただけだよ。それがたまたま女の人だったというだけの話だよ」

「でも、火のない所に煙は立たないって言いますし~」


 フリージアがリオスの腕に蔓を絡ませ、ポンポンと叩いた。

 慰めなのか、からかいなのか判別がつかない。


「女には目がないリオス君でも、さすがに植物系(わたし)爬虫類(カイサ)には欲情しないでしょ?

 そういう意味で、一番『安全な実力者』なんですよ」


 カイサも納得したように頷く。


「種族の壁は厚いからな。リオスといえど、私の硬い鱗を撫で回したいとは思わないだろう」

「……随分と買被(かいかぶ)られたものだね」


 リオスは不服そうに目を細めた。

 女癖が悪いという評価を前提に、さらに「異種族なら対象外」という偏見まで上乗せされている。


「僕は、種族で区別なんてしないよ。……君たちは、十分に魅力的だと思うけど」


 リオスは真顔で事実を述べた。

 仲間としても、異性としても。

 彼女たちの美しさを認めることに、何の躊躇(ためら)いもない。

 そこに下心はない。

 ただの評価だ。


 ――なのに、それが裏目に出た。


「うわ、出た」


 ユルルが空中で引いた顔をする。


「そうやって口説いてもなびきませんよ~。私たちはガードが固いんですから」

「口説いてないよ。事実を言ったまでだよ」

「はいはい、わかってますよ。そういう『無自覚な手口』なんですよね、知ってます」


 フリージアがくすくすと笑う。

 カイサも喉を鳴らし、楽しげに尻尾を揺らした。


「まあまあ、ええやないかリオス」


 ヴィーゼルがニヤニヤしながら、リオスの肩を小突いた。


「『安全パイ』として信頼されとるんや。光栄に思っとき」

「君は『胡散臭い』と言われて光栄なの?」

「商売人にとって『一筋縄ではいかない』ってのは褒め言葉や。……ま、限度はあるけどな」


 ヴィーゼルは苦笑し、視線を前方へ戻した。


 軽口を叩き合いながらも、一行は商業区画を進んでいくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ