普通
18歳の佐藤太郎は、どこにでもいる普通の男子だ。身長は平均的、顔も特に特徴はない。性格も控えめで、目立たず、誰かと大きなトラブルを起こすこともない。家族や友人からは「普通だね」とよく言われる。それが、彼を少し不安にさせていた。
「普通」――その言葉にはどこか引っかかるものがあった。普通ということが、何か価値のないことのように感じる時もあった。普通でいることが、周りの期待に合わせているだけのようで、佐藤は何もかもが淡々と過ぎていく人生に、物足りなさを感じていた。
そんなある日、学校で友人たちと話していると、また「普通だね」と言われた。
「お前、やっぱり普通だな。何か特別なこと、しないの?」
その一言に、佐藤はふと立ち止まった。普通――それが一体何だろうと、改めて考えさせられた。普通でいることに意味があるのだろうか?
翌日、佐藤はひとりで考え込んでいた。普通であることの意味、そしてその言葉が本当はどういうものなのか。それが自分にとってどういう意味を持つのか。
その時、ふと思い出した。小さい頃、彼はいつも「普通」でいたいとは思わなかった。友達にできるだけ面白いことをして、注目されることを望んだ。でも、いつの間にか周りに合わせることが習慣になり、無理に自分を特別に見せようとすることが嫌になったのだ。
佐藤は、その「普通」という言葉を、自分なりに考えてみることにした。
彼は、図書館で調べ物をしているときに、ある本に目を止めた。そこには、「普通」という言葉の意味がいくつか紹介されていた。一般的な定義、社会的な常識、そして他者の基準。それぞれが持つ「普通」の基準が違うことを理解した。
「普通って、結局その人が持っている物差しでしかないんだな…」
その瞬間、佐藤は心の中で何かが弾けた。自分がずっと追い求めていた「特別な自分」は、他人が作った基準の中でだけ意味があるものであり、自分の基準で生きることこそが本当の自由であることに気づいた。
その日、佐藤は家に帰ると、母親に言われた。「普通でいることに、何か不満でもあるの?」
佐藤は笑顔で答えた。「いや、普通でいいんだ。普通で、平凡で、幸せでいられることが一番だと思うんだ。」
母親は少し驚いた表情を見せたが、すぐにほっとした様子で頷いた。
佐藤はその後、無理に自分を変えようとは思わなくなった。普通でいることが悪いことではなく、むしろそれが自分を作り上げる一部だと感じたからだ。普通であることには何の不満もなく、むしろその普通の中で自分なりの価値を見つけることができるようになった。
そして、佐藤はやっと「普通」という言葉を受け入れることができた。それは、他人の物差しで測られるものではなく、自分がどう感じ、どう生きるかによって決まるものだと理解したのだ。
おしまい