地球で一番
火星有人飛行の成功から100年が経過した頃、新しい宇宙計画が提案された。
地球人の総力をもって太陽系外の惑星へ有人飛行を行おうというのである。
計画の発案者が「全てにおいて最高の地球で一番の宇宙船を作る」と宣言したことから計画はナンバーワンプロジェクトと呼ばれた。
これが思わぬ火種となってしまった。
部品の選定にあたり「エンジンは我が国のものが一番だ」「いいやウチの国の方が優れている」と争いが起きたのだ。
地球で一番と銘打たれた計画で選ばれれば産業にとって最高のブランドになる。
エンジンに窓ガラス、はてはトイレにいたるまで熾烈な誘致合戦とライバル国へのネガティブキャンペーンが展開された。
そんな有様なので日本人は計画がスタートしてからずっと不安を抱いていた。
経済が衰退し二流国家に転落してしまった我が国からもナンバーワンプロジェクトに選ばれるものがあるかしら。
その不安は得意満面の笑みを浮かべる総理大臣の記者会見によって払拭された。
「日本国民の皆さん、お喜び下さい!!
ナンバーワンプロジェクトに搭乗するパイロットに我が国が選ばれました!!
それも計画が発足して以来はじめての満場一致の賛成を受けての決定であります!!」
不安を抱いていただけにこの大抜擢に日本人は狂喜乱舞。
久しぶりの快挙に国中が飲めや歌えやの大騒ぎとなり「日本人に生まれて良かった」と涙を流す者まで現れた。
その様子に憂いの表情を浮かべる一人の若手官僚。
「総理、今からでも辞退することを検討してはいかがでしょう?
もしも真相が明らかになれば大変なことになります」
「そこをどうにかするのが政治というものではないか。
理由がどうであれ名誉なことには違いない。国民だって大喜びだ。
大切なのはこの盛り上がりに水を差されぬように後始末をしておくことだ。よろしく頼むよ」
そう言って総理大臣は自伝「なぜ私が日本人をナンバーワンに出来たのか」の発売記念会見へと向かった。
官僚は長く深いため息をついた。
勇気を振り絞った諫言も無駄だった。これ以上食い下がっても総理の機嫌を損ねて左遷されるだけだろう。
所詮自分は一人の官僚にすぎない。公僕として最低限の義務は果たしたのだ、もう自分に責任はない。
「もしもし、例の議事録だが機密指定をかけてくれ。いつものように全て黒塗りで頼む。
関係者が持っているものも廃棄処分だ。絶対にマスコミに嗅ぎつかれるなよ」
そう部下に命じた後、官僚は自身が手元に持っていた書類もシュレッダーへと放り込んだ。
そこにはこう書かれていた。
「選出理由 片道切符の乗り物に同胞を乗せて万歳三唱で送り出す地球で一番のカミカゼ民族」