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Error Load 〜隙間だらけの奮闘記〜  作者: 田代 豪
第四章 ピュリフィ・フェスティバル編
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私が相手だ



 校舎がある方向から、侵入者を察知した警報ブザーがけたたましく鳴り響いているのが聞こえる。

それはシグが言った通りに魔導保管室に入れたことを意味しており、トーガは耳を澄ませていた。


「頼んだわよ……シグ!」


 両目をきりりと釣り上げると、トーガは大暴れしているウイルスに視線を向ける。

ボットの攻撃はまるで当たってないし、仮に当たっても対してダメージにはなっていない。ユゥの攻撃は当たりはしてもやはり「操っているバグ」という、例えるなら火に火を注ぐような攻撃なせいか効いている様子はあまりなかった。

 未だほぼノーダメージで火を吹いては当たりを噛みつき回っているウイルスに対し、二人ともかなり手を焼いているのはすぐに理解できる。


早く決着付けなきゃ、こっちが不利になる一方だわ


トーガは駆け回りながら、ボットとユゥに大声で話しかける。


「ボット!ユゥ!あいつの攻撃を私に当ててほしいの!」

「っはああ!?正気かあんた!」

「了解!」

「いやなに了解してんだおかしいだろ!」


 突然であるトーガの考えに納得がいかないユゥは、おかしな事を言うトーガに、それに賛同するボットに怒りをぶつける。

青筋を立てながら声を張り上げており、かなり反対しているようだ。

 そんなユゥに対して、トーガは負けずと声を張り上げる。


「お願い!アイツに勝つためにはこうするしかないの!」

「っぐう……。だああああ!俺もう知らねえ!」


 髪をわしゃわしゃと掻きむしり、ズレていたマフラーをかけ直すユゥ。

攻撃を受け流すと、ユゥは振り返り言った。


「無策じゃないんでしょうね!」

「……当然っ!」


 緊張により口元が釣り上がる。

未だ暴れ回っているウイルスを目の前に、トーガはその場を強く踏み付けて駆け出した。


「おい!獅子顔のウイルス!こっち向きなさい!」


 腹いっぱいに息を吸い込み、その息を全て吐き出す勢いでウイルスに向かって叫ぶ。

ステージやグラウンドを破壊していたウイルスが、トーガの声に気が付いたのか、ゆっくりと首を回してこちらを向いた。

にたあ……と黄金色こがねいろの歯を見せて笑うウイルスに、トーガは身震いしながら肩を掴む。

 が、意を決したようにウイルスの赤い獅子顔にこれでもかと睨みをかますと、負けずと白い歯を見せて口を開いた。


「こっちに来なさい、私が相手になってあげる。」





 あの大きな口で噛まれでもしたら、恐らく口内に入ってしまった体の一部は体とおさらばすることになるだろう。

それはなるべく避けたい。ならウイルスのブレスに当たるのが無難だろう。

 だが、噛み付くような攻撃しかしてこないせいもあり、トーガは走って逃げ回っていた。

 瓦礫にまみれ、地面が抉れており恐ろしく足場が悪いせいか、体勢を崩してしまう。

ウイルスがここぞとばかりに口を開いて突っ込んでくる。


「ックロウズッサーベルァ!」

「当たれえええ!」


 間一髪、とはこのことだろう。

ボットとユゥがウイルスの胴部分に刃を向けて突進し、ウイルスが吹き飛んだ。

頭を揺らして起き上がったユゥは、翼を羽ばたかせてトーガの方へ振り返り、怒りを込めた声色を向ける。


「トーガが死んじまったら意味ねえだろうが!」

「やり!当たった!」

「あんたはあんたで喜んでんじゃねえ!」


 攻撃が当たったことに喜び、場に合わず笑うボット怒鳴りつけ、青筋を浮かばせた。

 その油断した一瞬、ウイルスが体を勢いよく揺らす。

ボットとユゥはそのまま吹き飛んでしまい、観客席目掛けて突っ込んでいった。


ゴホッゴホッ と二人は咳き込む。

体を震わせながら息を吐く二人を背に、ウイルスはゆらりと頭を揺らしてトーガの方へと振り返った。

 その刹那、ウイルスは大きな獅子顔をニヤリと笑わせ、トーガ目掛けて大きな口を開く。


 まるで、この瞬間を待っていたかのようにウイルスは飛びついてきた。

ガチガチ 歯を合わせて音を鳴らす。

もう、トーガのことを食べる気満々であることは容易に想像できた。

 視界の脇には、動き疲れた上に攻撃で負傷してしまったユゥとボットが名前を呼びながらトーガの方を見つめている。


……もう、背に腹は変えられないようだ。



「分かったわよ、腕の一本や十本くれてやるわよ!」



怖いものは怖い。

トーガは泣きながら両腕を広げる。

瞬間、ウイルスがトーガの右腕に飛びついた。

途端に赤い血飛沫が舞う。

右腕に地獄のような痛みが走り、トーガは目に涙を溜めた。


 ウイルスが、腕に噛み付いてきた。

視界が涙で歪む中、自身の右腕を見つめると、血液が衣服に滲み、バグにより紫色に染まっていた。

 痛みのあまり、トーガは体を揺らす。


「あっ」


 その時、トーガの声が漏れると同時に揺れるローブの胸ポケットから一つの万年筆が飛び出してしまった。

咄嗟に左手を伸ばし、万年筆を掴むが、万年筆のキャップが外れてしまう。

 万年筆の先端からインクが飛び出す中、歯軋りを立てて頑なに口を離そうとしないウイルス目掛けて、左手を振りかざした。


「お父さん、ごめんなさい!」



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