各々を求めて
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「クロウズウイング!」
「ははは!なんだそれ!」
「うるせえ!!!!」
高く飛び上がっているボットは、ウイルスの首目掛けてカッターナイフを突き立てる。
だが、当然のように空振ったカッターナイフは、奇跡的に胴を包む布に引っかかり、そのまま勢い任せに押し倒した。
ボットに必殺技の名前を笑われ、顔から火が噴くんじゃないかと思うほどに赤面させるユゥは、そんな中でも一切攻撃の手は緩めることなく、手を振りかざして背中に力を込める。
操っているバグの翼を、体勢を崩したウイルス目掛け何百枚と突き飛ばした。
「ちょ、当たる!!!!」
ドシンッ……!
ウイルスを抑えていたトーガにも攻撃が当たりそうになり、声を上げるが、激しい攻撃により掻き消されてしまった。
土煙をあげながら、地面に叩きつけられたウイルスは地面が震えるほどの咆哮をあげる。
痛みを堪えるべく瞳を閉じてみたが、痛みはいつまで経っても襲ってこずに涼しげな風だけが頬に当たっていた。
「大丈夫……っぽいね!うん!」
「!シグ!」
ゆっくりと瞼をあげると、いつも通りの澄ました顔をしたシグがトーガを抱き寄せて飛び逃げていた。
強風により帽子が吹き飛ばされないように、と抑えながらシグは口を尖らせている。
「全く……ユゥ兄ってば弟使いが荒いんだから」と言い観客席に着地した。
「僕はユゥ兄と違って弱いんだからあんまり無茶振りしないで欲しいよねえ!」
「シグありがと!」
「どーいたしまして〜ってどこ行くのさ!」
せっかく観客席に、それも逃げ惑う人々の近くに下ろしてもらえたのだ、このまま逃げるのが普通だろう。
「いや逃げなよ!」とシグに突っ込まれるが、そんな事は気にもしない様子で観客席から飛び降りようと身を乗り出していた。
放っておくわけにもいかず、トーガの両脇に腕を通して抱えるが、まるで逃げる様子はない。
「いやいやいや!僕らみたいな弱い奴らが行っても邪魔になるだけだから!」
「たしかにそうだけど……!」
冷や汗を頬に流し、激戦が広げられているグラウンドを見つめる。
ウイルスの攻撃をなんとか交わしながらボットとユゥは攻撃をしているが、まるでダメージを負っているようには見えなかった。
そもそもボットの攻撃に関しては当たっていないのだ。
少しずつ動きが鈍っているようにも見え、体力差で負けるのも時間の問題だろう。
このままじゃ皆やられちゃう……
なにか……方法はないの?
自身の記憶と知識を巡らせる。
一つ、とある授業の時の記憶が浮かんだ。
……あれなら、あのウイルスを倒せるかもしれない。
でもその為にはウイルスの動きを止めなくちゃ……ならユゥだけじゃなくてボットにも攻撃を当てて貰わないと……
トーガは、手を強く握りしめる。
ボットは「空振りバグ持ち」、なら攻撃を当てる為には私が治すしかない。
……よし。
「シグ!お願いがあるの」
「な、なに!?危ないのは嫌だからね!?」
「ごめん、もしかしたら危ないかもしれないわ!」
「ウソォ……」
シグは顔を真っ青に染め上げた。
が、そのあと直ぐに決意をしたように頷き、トーガの話を聞く。
そっとトーガから手を離すと、シグは一枚の紙切れを受け取り、二人は別れて各々が目的地へと走り出した。
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シグはトーガに言われた通り、とある物を求めてピュリフィケーション内を走り回っていた。
初めて踏み入る校舎な上、無駄に広いせいもあり道に迷いながらドタバタと靴音を立てている。
「えっと……下に降りる階段、階段……!」
地面を土で汚して廊下を駆け抜けていると、一つの教室の前を通った。
机や椅子、教卓なんかが置いてあり、至って普通の教室だ。
ふと、シグは思い出した。
__あれは厳重に保管されてるから、セキュリティをぶっ壊すために鈍器かなんか拾ってけばいいわよ。
「……これでいいかな!」
そうだ、トーガにセキュリティを破壊するための鈍器を持参しろと言われていたのだ。
シグは教室に入り、手頃な椅子を掴むと、試しに地面に叩きつけてみる。
ガンッガンッ 椅子はかなり頑丈であり、二、三回ほど叩きつけてみたが傷一つ付かなかった。
これなら鈍器に最適だろう。
シグは椅子を片手に教室を飛び出す。
しばらく走っていると、地下へと続く階段が見えてきた。
勢いに任せて素通りしそうになったが、その場に踏み止まると椅子を引きずりながら階段を下る。
地下にはまた長い廊下と沢山の扉があり、扉一つ一つに付いているパネルを見て小走りで走った。
「これ……かな」
とある扉の前に立ち止まり、パネルに書いてある文字を確認する。
シグは文字が読めない為、一文字一文字をトーガに貰った紙切れ……メモを頼りに読み返した。
……魔、導……保……管、室。
魔導、保管室
魔導保管室!
「ここだ!トーガが言ってた部屋!」
慌ててメモを腰ポケットにしまい、ドアノブを回す。
が、やはり鍵がかかっており開かないため、椅子をドアノブ目掛けて叩きつける。
何度も何度も叩きつけているうちにドアノブは鈍い音を立てて外れてしまった。
そんなことは気にせず、半壊したドアを蹴り飛ばすと、魔導保管室へと足を踏み入れる。
途端に侵入者を察知してかブザーが鳴り響いた。
「うっさ!馬鹿じゃん!」
半ばヤケになりながら、トーガの言っていた物を求めて走り回る。
ヴーヴー!
ヴーヴー!
赤いランプが部屋の中を点灯しており、視界の悪さも最悪であった。
魔導保管室の中を駆け回っていると、とある一つのガラスケースを見つける。
そのガラスケースの中には、一冊の分厚い本がしまわれていた。
「これだ!」
ガラスケース目掛けて、椅子を振りかざす。
……だが、先程のドアを半壊させる際に限界に達していたようで、ボロボロと崩れてしまった。
「はああ!?急いでるのにさあ!」
壊れてしまった椅子の足を掴み、ガラスケースに叩きつけてみるが、ビクりともしない。
何度叩きつけてもヒビ一つ入らないガラスケースに痺れを切らしたシグは、そのまま椅子の足を投げ出し、自分の握り拳を見つめた。
……絶対、痛いよなあ……
だが、背に腹はかえられないだろう。
シグは眉間にシワを寄せ、ガラスケースに向かって力任せに拳を振りかざした。
「うらあああああっ!」
パリイッン!
辺りにガラスの破片が散らばった。
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