新たなる仲間と共に
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あの後、すぐに壊助師が来てくれたこともありバグ感染者はゼロ。
ボロボロになった広場と、酷いことになっているウサギだけが残った。
このままでは良くないと思ったトーガは、ウサギの死体を丁寧に拾って抱き寄せる。
「どうすんだ?そのウサギ」
「うちの庭にお墓をと思って」
ボットに聞かれたことに素直に答えて、あたりを見渡す。
もうウサギの死体は落ちていないことを確認すると、ふとユゥとシグが目に入った。
ユゥは壊助師に負傷した左腕へ包帯を巻かれており、シグはそれを心配そうに体を揺らして見ている。
あの様子ならきっと大丈夫だろう。そう思ったトーガは、邸へと帰ることにした。
「じゃあねボット」
「おう、またな!」
ウサギを抱いているせいもあり、手を振ることはできなかったが、頭を下げてその場を後にした。
それにしても、ユゥたちが着ていた燕尾服。既視感が頭から離れないのはなんでだろうか。
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……
………
長く続いている壁と、一定間隔で置かれている外灯。
門の前について、ベルを肘で鳴らす。
すると門が開いたので、そのまま門の中へと入る。
……そこまでは良い。そこまではいいのだが、どうしても疑問に思ったトーガは後ろを振り返った。
「ねえ、どうしてついてきているの?」
振り返った先には、燕尾服を着ているユゥとシグがいた。
右手首に包帯を巻いているユゥと、紙袋を抱いているシグはこちらを見ている。
この時、ようやく既視感の正体に気がついた。
そう、あの燕尾服はジュラルド家の男性使用人が着るものなのだ。
今日とっくにいなくなっているはずの兄弟がここにおり、その上使用人の服を着ている。
おまけに頭を下げて跪き出すものだから、想像が確信に変わった。
ユゥが跪くと、シグも慣れない様子で跪く。すると、一言言葉をこぼしたのだ
「今日からここで働かせていただきます、トーガお嬢様」
「お、お願いしまーす」
唖然と見つめているトーガをよそに、兄弟は立ち上がると各々動き出す。
ウサギの埋めようとしていたのを分かっていたのか、シグは紙袋を邸の中へ、ユゥは庭にある倉庫へと走っていく。
素早く戻ってきたユゥはショベルを持っており、庭に突き立てるとウサギを受け取る。
我に帰ったトーガはユゥに話しかけた。
「え、ここで働くってどういうこと」
「……恩を返そうと思っただけです」
視線を地面へ向けているユゥの表情は見えないが、せっせとショベルで掘っている。
戻ってきたシグはユゥの様子を見るなり、くすくすと笑い出した。
「ユゥ兄恥ずかしがってやんの!」と揶揄うと、図星だったようで耳まで真っ赤に染めて土をいじっている。
「たしかに恩返しもあるけどね、僕らが寂しくなっちゃっただけだよ。」
美味しいご飯も食べたいしあったかいお風呂も布団ももう忘れられないからねえ、だなんて笑うシグを見るとトーガも釣られて笑う。
その表情は本当に嬉しそうであり、珍しく歯を見せて笑っていた。
邸内の黒いカーテンの隙間からは、使用人が三人を覗き見している。
笑顔を見せているトーガを見て、使用人も自分のことのように頬を緩ませていた。
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次の日。ユゥとシグが庭の手入れをしていると、トーガが慌てたように邸を飛び出した。
まだ朝早い。学校に行くには早すぎることもあり疑問を持ったシグはトーガに聞く。
「トーガ!こんな早くにどうしたの!」
慌てるトーガは、その場で足踏みをしながら振り返る。
「ピュリフィ・フェスティバルの準備!」
ピュリフィ・フェスティバル。
トーガの通う、ピュリフィケーションで行われる大きな催しだ。
数多くいる壊助師の卵の実力が試される上、様々な国から運ばれてくる料理や衣服に皆が心を躍らせる。
今年から中等部に上がったトーガは初参加であり、大好きな父がトップを取ったこのイベントに心を躍らせていた。
第三章 正反対の兄弟【完】
◇ ・ ◆ ・ ◇
初参加である憧れの催しに心を躍らせるトーガ。
それに向けての前準備、厳しくなるであろう授業に頬を緩ませ、ピュリフィケーションに足を運んでいた。
「実践あるのみよ!」
何が起こるかわからないあまりにも大きすぎる催し。
シグとユゥという新たな仲間を迎え、トーガとボットたちはどうなるのか……?
「なんで武器直ってないのよ!」
「そんなすぐに直せるわけねえだろ!」
「それもそーねーー!」
__next第四章 ピュリフィ・フェスティバル編
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