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Error Load 〜隙間だらけの奮闘記〜  作者: 田代 豪
第三章 正反対の兄弟
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見違えた景色



すっかり日が落ちた夜。


 勉強帰りに帰宅したトーガは、邸のベルを鳴らす。大きな音を立てながら開く門を潜ると、いつもと違う景色に違和感を覚えた。


……庭の低木が手入れされてる。珍しい


 ジュラルド家には現在使用人が一人しかおらず、足元が暗いからと靴を脱がずに土足で歩き回ることもあり毎日掃除三昧。

 住んでいる人数は少ないくせに無駄に広い邸内を一人ではとても掃除しきれず、庭はここ最近触れられてなかったのだ。

そう思いながら、トーガは邸の扉をノックする。すると、使用人とは似ても似つかない賑やかな足音がバタバタと近づいて来た。


「えっなになに」


 慌てて扉から距離を取って後退り。咄嗟に近くにあった柱の影に隠れた。

距離を取って大正解、とでも言うかのように勢いよく扉が開き、壊れるんじゃないかと思うぐらいの音を立てる。


 すると扉の向こうには昼間に比べて綺麗になったユゥが立っていた。恐らくだが昼間にお風呂にでも入ったのだろう

見たところシグはおらず、出迎えてくれたのがユゥだけであると想像できる。


……。



「ねえユゥくん。」

「ユゥでいい」

「そう、じゃあねえユゥ。」

「なんすか」

「邸内は走らないでちょうだいね」



 つまり、先程のバタバタと賑やかな足音はユゥ一人で立てていたことになる。

クールな顔して意外と破天荒なのだろうか、とも思ったが竜の息吹の時の掃除や、食事の時を思い出す。

 絞らない水分タプタプな雑巾を使ったり、ローストビーフやシチューを手掴みで食べようとしていたではないか。

 だが言うと改善されるどころかものすごく器用にこなせる様になるユゥはおそらく、破天荒というより世間知らずなだけだろう。

現に走るなと言ったら一つ返事を返すなりしっかりと歩いてくれている。


「ところで、なんでまたユゥが出迎えを?」

「……なんとなくだ。」

「ふうん、変わってるのね。」


手渡されたランタンの灯りを揺らしながら、暗い廊下を歩くと、唯一明かりのついている部屋の扉が開いており、ひょっこりと顔を出したシグが手を振っていた。


「今日はすごいよ!お肉のかたまりなんだ!」





三日目。


ユゥは眠そうに黒い右手で目元を擦る。少し早めに起きてしまった。というのも、掃除の際に使用人が言っていた言葉がどこか引っかかってしまい、とても寝付けなかったのだ。

白い紙袋を手に取り、薬を口の中へと放り込む。相変わらず苦い。

 だが、苦い薬が少しずつではあるが減っているのにも関わらず、どこか寂しさを感じた。

なんとか気を逸らそうと紙袋の縁を指でなぞり、折り、広げるを繰り返す。


だが、思考はどんどんそれに埋め尽くされていった。



……掃除が手際が良い、教えれば全てを手早くこなせると分かった使用人は兄弟を見てありがたそうに笑っていた。

 人数が増えたこともあって普段触れていない庭にも触れることができて「本当に助かった」だなんてお礼を言われてしまい、焦ったのを覚えている。

 でも、これはあくまで美味しいご飯や温かい風呂、綺麗な布団に雨風凌げる場所を貸してくれている恩返しであり、感謝されるとなんだかむず痒い。

頭を下げている使用人に釣られて頭を下げるなんて間抜けな光景を広げていたのは今考えるとアホらしい。



「トーガお嬢様と遊んでくれて、ありがとうございます。」



 勢いでそう言われた時は酷く困惑した。

兄弟目線、トーガには助けられているという認識しかないし、当然ながら遊んだ記憶もない。

だが、頭を下げたままの使用人はその表情が見えない様で、ぽつぽつと言い続けた。


「旦那様がお亡くなりになってから、トーガお嬢様は笑顔を見せることが少なくなりました。私は所詮使用人。なにか言葉をかけるなんてできませんでした」

「ですが最近、あなた方お客様が当邸にいらしてから目に見えて笑顔が増えたのです。本当に毎日が楽しそうで……」

「とても感謝してもしきれません、ありがとうございます。」


頭を上げた使用人は、本当に嬉しそうだった。


……。



「……兄!ユゥ兄!」

「うお、どうした」

「うお、どうした……じゃないよ!どうしたはこっちのセリフだよ!」


 いつの間にか時間が経っていた様で、眠っていたはずのシグが起きていた。

気を逸らすためにいじっていた紙袋はぐちゃぐちゃになっており、シグは心配そうにユゥを見つめている。


薬は残り四粒、これが無くなったら竜の息吹に行って俺たちは終わり。

またボロヌノ街で兄弟二人での生活をするんだ。

 ふと、初日の夜に食事を遠慮した時のトーガのどこか寂しそうな表情を思い出す。

忘れる様に頭を左右に振り回すと、ユゥはシグに笑いかけた。



「なんでもない、多分」



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