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Error Load 〜隙間だらけの奮闘記〜  作者: 田代 豪
第三章 正反対の兄弟
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臭いってよ



二日目。


 相変わらず苦い薬を飲み込む。残りは五粒。大丈夫、すぐに無くなるだろう。

昨日とは違い、きちんと布団をかぶって寝ているシグの顔を見ると、涎で布団を濡らしていた。

こんなに高そうな布団なのに、なんだが申し訳ない。


 少し時間が経つと、昨日と同様、ワゴンカートを押して使用人が食事を運んできた。

温かな食事にシグは頬をこれでもかと緩ませ、ユゥは一口一口を噛み締めている。

ふと、使用人が兄弟を見て、すんと臭いを嗅ぐ。使用人の目線、ものすごくボロボロで小汚い兄弟たちを思ってか、このような提案をした。


「お風呂、入りましょうか?」


臭いってよ





「すっげえええ!デッカイ水溜りだ!」

「シグ」

「うおっあっちー!マグマだマグマ!」

「シグ」

「見てみてユゥ兄!雲みたい!」

「落ち着けシグ、転ぶぞ」

「あでっ」



 案の定転んだシグを助けに行こうと歩くと、ユゥも足元を滑らせて転ぶ。

足元は泡だらけになっており、起き上がるのも一苦労だ。


 使用人の言葉に甘えた兄弟はお風呂に入ることにした。風呂の入り方がわからない、と言った時には使用人に酷く驚かれたが、置かれているものの使い方を全て教えてくれ、本当に頭が上がらない。

足元を泡で滑らせながら、なんとかシャワー前にたどり着くと、青い蛇口を捻る。すると勢いよく水が飛び出し、慌てて蛇口を逆に捻って止めた。

 そうだ、青ではなく赤を捻れと言われていた。そう思い改めて赤い蛇口を捻る。


「ユゥ兄、これあったかいよ」「……おう」


すると、先程の氷のように冷たい水とは打って変わり、温かなお湯がシャワーヘッドから流れ出した。


「あはははは!」 「暴れんなシグ!洗えねえだろ!」


 シャワーで体を濯ぎ、次はと使用人に言われたことを思い出して石鹸を掴む。

その際に受け取った白いタオルで擦ってやると、もこもこと泡が溢れ出した。


なるほど、シグはさっきこれに触ったんだな。


 頭の中で完結させながら、泡だらけになったタオルでシグの体を拭ってやる。すると白かったタオルはどんどん茶色に染まっていき、いかにシグの体が汚かったかを想像させた。

くすぐったいのか、笑って暴れるシグをなんとか抑えて洗ってやり、全身洗い終えたのを確認するとそっと手を離す。


そこには全身泡まみれのシグが座っており、ユゥは可笑しさのあまり吹き出した。


「ぶっ」

「な、なにがおかしいのさあ!おらっ次はユゥ兄の番だよ!」

「は!?いや俺は自分でやるからいい!」

「ずるいよ!!!!」


 全身を泡だらけにしながら、兄弟はお風呂場で取っ組み合いを始めてしまう。

だが、最終的には弟可愛さもあり、タオルを譲り体を洗ってもらったが、これはくすぐったい。

 なんとか笑わないようにと堪えていたユゥだったが、耐え切れずに笑った。

水浴びは雨が降った日に何度かやったが、こんなに楽しいのは生まれて初めてだ。


 石鹸を泡立て、頭を洗ってからシャワーで丁寧に流す。

泡が落ちたシグは犬のように頭をぶるぶると振ると、使ったタオルをシャワーで洗い流しているユゥの腕を掴んで湯船に向かって走り、飛び込んだ。


バチャン!


「っぷぁ!なにこれあっつーい!」

「あっぶねえだろ!」


 お湯に沈んでいた顔を出すと、兄弟揃ってお湯の熱さに顔を赤くしている。

突然のことに驚いたのか、ユゥはシグに向かって怒りを向けているが、シグが楽しそうにしているのをみてどうでもよくなったようで、呆れたように笑った。





 お風呂から上がった兄弟は、洗面所に置かれていた綺麗なシャツとズボンを着て廊下を歩く。

 靴音をコツコツと鳴らしながら、首に巻いているタオルで頭を拭って歩いていると、ふと目の前に使用人の姿が見えた。

モップを揺らして素早く体を動かしている使用人は掃除をしているようだ。


 何かを思ったのか、ユゥはその場に立ち止まり考える。

使用人が、あの黒髪の人しかいないのだ。あの日の夜に玄関を開けたのもこの人だったし、朝食を運んでくれているのもお風呂を勧めてくれたのもこの人だけ。

 まさか一人だけなのか?そう思ったユゥは、使用人の元へと足を進めた。


足音が近づいて来たことに気が付いたのか、使用人はユゥの方へと振り返る。

その頬には汗が伝っており、忙しいのが見て伝わった。


「風呂ありがとうございました。」

「気持ちよかったねー!」

「まあ、それは良かったです。」


 トーガの友人、と言われていたからか掃除をする手を止めてわざわざこちらに向き合ってくれる使用人になんだか申し訳なさを感じる。

何か恩返しはできないだろうか?ユゥは辺りを見渡し、自分の出来ることを思い出そうと頭を回した。

そして、とあることを思い出す。


 そうだ、掃除のやり方なら竜の息吹でトーガに教えてもらったではないか。

兄弟の勘で何かを察したのか、シグは逃げ出そうとしているが、ユゥはそれを掴んで阻止。



「あの、やってもらってばっかじゃあれなんで掃除手伝います」

「え?」 「ほーらやっぱり!僕ヤだよ!?」



 掃除を手伝う。そう言ったユゥを見て使用人は唖然と口を開く。

察していた通りのことを言ったのか、シグはその場で愚痴をこぼした。

 だが目の前の兄がやると言っており、使用人も一人忙しそうにしているのにも関わらず、自分だけ楽をするのは気がひける様子。

掃除を始めようと使用人の後をついていくユゥに背を向け、「行かない!」「僕はやらないぞ!」と駄々をこねるが、ぷるぷると肩を震わせてシグは振り返った。


「あーもう!やるよ!やればいいんでしょ!」



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