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Error Load 〜隙間だらけの奮闘記〜  作者: 田代 豪
第二章 薬屋「竜の息吹」
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薬がない!



「すぐにお茶ご用意しますので!」


ピックはにこやかに微笑みながら、一度沢山の荷物が入った紙袋を地面に置く。


 そして腰のポケットに手を入れると、大きな緑色の竜のストラップが付いた鍵を取り出した。

「この子よっぽど竜が好きなのね」トーガは心の中で思っていると、にこやかだったピックの表情が突然険しくなる。何事かと顔を覗かせると、そこには鍵を回していないのに開いている店の扉があった。


 怒った様子でピックは鍵をポケットにしまうと、間抜けな顔をして明後日の方向を見ているキリュウに向かって思い切り睨みをかます。

 すると、怒ってはいるが全く気迫を感じない可愛らしい声でキリュウに怒鳴りつけた。



「おじいちゃんまた戸締り忘れたでしょ!」

「何言ってんだ、鍵はお前が持ってるだろ」

「これはスペッ……もういいよ……お客さんたちも待ってるし」



恐らく「これはスペアだ」と言おうとしたのだろう。

だが、呆れたのか大きくため息をつくとお店の扉をゆっくりと開いた。


 すると突然、ピックが悲鳴を上げてその場に尻餅を付いたではないか。

「きゃー!」と甲高い声で叫んだせいもあり、耳鳴りの様な音が聞こえるが、何事かと思いピックに続いて店内に走り入ると、ボットとトーガは目を見開く光景が広がっている。


 お店にあって当然なのだが、おそらく古い機種なのであろう大きなレジカウンターに、その周りの棚にはずらりと薬が並んでいる。


……だが、問題はここからだ。


 並んでいる薬、は所々が大きく隙間を残して無くなっており、店の中の観葉植物は倒れて土が溢れている。

 おまけに店内は足跡と泥だらけであり、一目見ただけで盗みに入られたことが想像できるほど店の中は荒れ放題であった。


「うそ!く、薬がない……!」


急いで店内を走り回り、商品一つ一つを確認していくが、「あれもない、これもない」とピックは涙ぐんでいる。


「っおいおい、大丈夫かよ!」


 何か手伝えることねえか?そう言い、ボットは素早くピックの側に駆け寄る。

ボットに続くべく、トーガも一歩踏み出そうとするが、ふと扉の側で肩を震わせながら口元に手を当てているキリュウに目が止まった。

 首を傾げてみていると、突然くつくつと喉を鳴らしながら笑い始めたではないか。


 トーガは目を点にしてキリュウみるが、笑い事ではないため当然ボットとピックの視線もそちらに行く。


 すると、女性受けの良さそうな顔をして頬を染め、笑いながらこう言った。



「ははは、何かを無くしたのか。お前も人のこと言えんな。」



こいつマジか


 トーガは口元をヒクヒクと歪ませ、ボットは思わず視線を逸らす。

そしてピックはその場から動かず、ワナワナと肩を震わせている。


 ……が、すぐに顔を上げると、そこには先ほどまで涙ぐんでいたのとは違い、怒りで頬を赤くしているピックが立っていた。



「誰のせいでこうなったと思ってるの!」





とりあえず荒らされた店内を片すのを手伝っていると、とある特徴が分かった。


 それは「バグ用の治療薬のみが盗まれている」ということ。

店内を見ていると、バグ用だけでなくもちろん傷薬もあれば湿布なんかもあった。

当然ながらレジが置いてあるのだからお金も置いてある。

 だが、盗まれているのは見事に「バグ用の治療薬のみ」。

その状況に何処か既視感のあったトーガは、なんとか思い出そうと思考を巡らせていくと、ここに来る前に来ていた大きなお店の外に置かれた掲示板の内容を思い出した。



【盗っ人に注意】

最近、バグ用の治療薬が盗まれる事件が多発しています。

近辺の薬屋は戸締りをしっかりと行い、盗まれない様に気をつけましょう。



……そうだ、バグ用の治療薬のみが盗まれている事件は掲示板に貼られていた記事に書かれていたのだ。

ある程度店の中を片し終えると、外に置きっぱなしにしていた紙袋を店内のカウンターに置き、店の外へと出る。


そして、きちんとピックが鍵をかけたのを確認するとトーガは話した。



「さっきのお店の前にあった掲示板、あれに盗っ人についての記事があったの。恐らく犯人はそいつね。」

「その盗っ人とは限らないんじゃねーの?」

「バグ用の治療薬だけが無くなってたのをお片付けしたときに確認したわ。その特徴が記事のやつと一緒だったのよ」

「はーなるほどなあ」



ラベルとプライスカードを一枚一枚確認したのだ、間違いはない。

トーガは人差し指を立ててボットに言う。


 するとボットは納得したように頷き「じゃあさっさと捕まえよーぜ!」とその場で準備運動を始めた。

 それに賛成したのか、トーガも腕のストレッチをしていると、ピックが慌てた様子で二人に話しかける。



「え!そんな申し訳ないです!」

「気にしないで、乗りかかった船だもの。」

「人助けは気分いいしなー!」

「お客さん……!」



 両手を合わせ、拝む様に涙で目を潤わせているピックを見ていると、トーガとボットは「お客さん」という単語であることを思い出す。


 それは、ピックは自己紹介をしたというのに自分たちはしていない、なんて単純ではあるが大事なことであった。


 こんなに幼い女の子が挨拶をしたというのに何をやっているのか、自分に呆れて頭を抱えると、トーガはピックに向かってご挨拶。

ボットの時同様、帽子を胸元に当てながら、ピックの身長に合わせて膝をつくと頬を緩ませた。

 それに合わせる様にボットは前髪で隠れていない右目を見開き、キラキラと効果音が聞こえるぐらいに笑って、どかんとその場にガニ股でしゃがむ。


「ご挨拶が遅れてごめんなさい。私はトーガ。トーガ・ジュラルドよ。」

「わりーな!俺はボット!ボット・グランヴィだ!」

「よろしくな!」 「よろしくね。」


 弾ける様な輝かしい笑顔を見せるボットに、落ち着いた美しい微笑みと立ち振る舞いを見せるトーガ。

 それらに余程の感動を抱いたのか、ピックはその場で涙で濡れた目元を拭うと、ぱっと顔を前に向けて頭を下げた。


「ご迷惑おかけします!ありがとうございます!トーガさん!ボットさん!」





二手に分かれた方が確実に見つける確率も上がるし、効率が良い。


別れるのなら慣れたペアの方が立ち回りもしやすいのは当然である。


ということで「薬屋竜の息吹」の無くなった治療薬を探すべく、トーガとボット、ピックとキリュウでペアを組み分かれることとなった。


「さてと、まずは……」

「ヨシ!手当たり次第探すぞゴーゴー!」


 作戦を練る為か顎に手を当てていたトーガだったが、そんなの考え無しにボットが首根っこを掴んで引きずって行く。

 いつのまにかピックの視界の中には二人の姿は見えなくなっており、ピックはきょとん と目を丸くした。


「足が速い人なんだなあ」


 一瞬ではあるが、楽観的に考えてしまい、ピックは頭を左右に振る。

髪に編み込んだ赤いリボンを揺らして、意を決すると、つまらなそうに腰のポケットに手を入れて欠伸をしているキリュウに話しかけた。



「さて!尻拭いは自分たちでしなくちゃいけないよね!頑張ろうおじいちゃん!」

「ふぁあ……、何のことだか知らんが分かった。」

「おじいちゃんそれ分かったって言わないよ」



 ぷりぷりと怒った様子で腰に手を当てるピックを見て、楽しそうに笑うキリュウ。

まあこの光景はピックにとってはいつも通りのことであり、そのまましょうがないな、と笑いかけた。


 何も理解していないキリュウの足を動かすべく、ピックは小さな右手でキリュウの左手を掴むと、ずんずんと足を進めていく。

「薬屋竜の息吹」の目立った竜の看板を背に、ピックの狭い歩幅に引かれながらキリュウも一歩一歩とその場を後にしていった。


 綺麗な花を売る花屋に、美味しいパンを売るお店、新鮮な果物を売っているお店といった数分前に見たお店が並んでいる商店街をずんずんと引き返していくと、ピックはとある大きな店の前で足を止める。

余程急いでいたのか息を切らしているピックは、そっとキリュウから手を離すと、そのお店の前にある掲示板に駆け寄っていった。


そう、ピックはトーガの言っていた掲示板にあった盗っ人の記事を見にきたのだ。

目の前の大きな店はほんの数分まで買い出しをしていた店であり、ここで間違いないことを確認した上で掲示板をじっと見つめる。

 盗っ人についての記事を探そうとしたわけだが、その記事はあまりにも目立っており、探す必要は全くなかった。



「ボケとか死ねとかばっちい言葉ばっかり……」

「汚い字だな、読めん」

「おじいちゃん失礼だから!」



 場違いなウサギの触れ合いイベントの広告を横目に、片っ端から記事を見ていくピック。

びっちりと隙間なく記事が貼られている掲示板は、よく見ると記事と記事が重なっている部分があることがわかり、そこをペラリとめくった。


すると、そこには落書きだらけの似顔絵が二枚、貼られており、それを囲う様に沢山の矢印と愚痴が書かれているではないか。

愚痴の内容はやはり「逃がすな」「捕えろ」「殺す」などと言った街中の掲示板とは似合わない内容であり、自然とこの似顔絵に写った人物が今回の盗っ人騒動の犯人であることが理解できた。


落書きで描かれた猫ヒゲやら渦巻きのほっぺ、鼻から垂らされただらしない鼻水を邪魔に感じながら、ピックはその似顔絵とにらめっこ。


 一枚目には、これでもかと過剰に釣り上げられた目元に、薄紫色のボサボサな髪。

切るのを失敗したのだろうか?それとも似顔絵が下手なのか、髪型は斜めにバッサリと切られている。

この似顔絵を囲うように紫色のぐしゃぐしゃに描かれた何かが描かれており、これも恐らく落書きだろう、とピックは頭の中で完結させた。


 二枚目は逆にこれでもかと過剰に垂れた目元に、大きな紺色のキャスケットを被っており、隙間から金髪が覗いている。目からはボロボロと涙を溢していて、泣き虫であることが容易に想像できた。


 落書きのせいで情報がごちゃごちゃになってしまいそうになるのをなんとか抑え、考える。

そのおかげか犯人の人物像は荒めではあるがピックの脳内に出来上がった。


 恐らくではあるが犯人は二人、又は二人以上。

この写っている二人が共同しているかは分からないが、「バグ用の治療薬だけを盗む」というのは非常に珍しいことであり、共同しているのはほぼ確実であると想定した。



……さて、ここまではいいのだ。問題はここからである。


 重なっている記事や愚痴なんかを見回ってみるが、どれもやられていることは共通しているものの、やられている場所は見事に疎らであった。

 大型のお店の中に経営されている少し高めの薬屋であったり、人通りの少なめなひっそりとやっている薬屋だったり。

共通点が薬屋であることしかないのだ、これでは犯人を捕らえるのはほぼ不可能である。

 しらみ潰しに薬屋を見ていくしかないのか、そう思いピックが大きく溜息をついていると、それを見てキリュウは何かを思ったのかキリュウは店の中に入っていってしまった。



「え!?おじいちゃんどうしたの!」



からんからん、と店の扉についたベルがなり、同時にパタンと扉が閉まる。


突然の行動にピックは慌てるが、そう時間は立たないうちにキリュウは店内から戻ってきた。

ピックは何のために店内に入ったのか疑問に思い、首を傾げる。


すると、キリュウの後を追うようにこちらに来ている人影が見えた。

近づいてくるにつれ、その人影の姿がはっきりと見えてくる。

ズバリ、この店の店主だ。



「店主、少しいいか?この記事に載ってる間抜け面が何処にいるか知りたいのだが」

「おっ、おじいちゃん……!」



ピックは感動していた。


 何故なら、普段は「データ消滅」のバグのせいかボケっとしているキリュウが進んで行動をしているからである。

 目の前で記事を指差し、荒い口調ではあるが何をするのかを忘れずに行動していることにピックは頬の熱を向上させ、口元を緩ませながらも思わず両の手を合わせていた。


だがいけない。感動している暇などないのだ、早く犯人を見つけなくては。

ピックはすかさずキリュウに突っ込みをひとつ。



「……って!おじいちゃん!?そんな直球なのわかるわけ……!」

「知ってるよ。」

「ほらやっぱってええ!?」



一人で驚いているピックを見て、キリュウは「何をそんなに驚いているんだ」と呆れた様子で立っていた。



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