体育祭編
まだ幼い記憶。少し冷たい優しい手が小さな僕の手を引っ張っている。砂場、ジャングルジム、ブランコ、シーソー。いろんな世界へ誘ってくれた。彼女の名前は『ミオ』山本ミオだった。僕は彼女の心を心底欲した。不気味なほどに。
幼馴染であるミオの家に遊びに行っていた。昔から仲がよく親同士も仲良し、2歳上の彼女の部屋は少し大人びていて、可愛いと言うよりシンプルだった。ミオがトイレに行った。僕は部屋の中を物色し、面白いものがないかと探す。
本棚に目を引くものがあった。タイトル無しのメモ帳の様な本だった。それを手に取りペラペラとめくる。細かい字でよくわからないが日記の様だ。読み始めてすぐミオが帰ってきた。「なにしてるの!」怖い顔でそう僕に放つ。今まで感じた事のない冷たい目線、嫌われたのではないかと言う不安がのしかかる。すぐ本を棚に戻し、謝罪する。彼女はいつもの優しい笑顔で「いいよ」と微笑みをくれた。その日は他愛もない話をした後に帰った。
次の日。
憂鬱な月曜、足取りが重くなかなか進まない。ふと何かの記憶がフラッシュバックの様に脳内に流れる。“後ろから制限速度を無視したバイクが僕を轢く”。なんとはなしに路肩へ肩を近づける。その瞬間後方から70キロは出ているだろう原付が僕の横を通り過ぎた。信じられなかった。自分は未来を見たのか。
“学校に着くとカオルが「おっはよー!」と肩を組んでくる”僕は教室に入るなり、近寄ってくるカオルに肩を組まれ「おっはよー!」と言われた。確信した。見たいと思う未来が見れる。なぜこの様な力を持ったのかは不明だった。
その後の授業も先生の会話もみんなの話ですら全て知っていた。
“3週間後に体育祭があるからリレーの選手決めとけよー”脳内に流れてくる先生の声。
「3週間後に体育祭があるからリレーの選手決めとけよー」鼓膜を伝う先生の声。もちろん誰がリレーの選手になるかもわかっている。4選手選ばれるが、1番カオル、2番カホ、3番ルミ、4番ミノルだった。カオルは勉強はできないが運動だけは出来る奴なので当然だ。カホは勉強も運動もそこそこだがみんなからの信頼は熱い。ミノルは運動も勉強も出来る完璧な奴だ。ルミはミノルが大好きだから一緒に出たいんだろう。
だが。
“リレーの途中でミノルが足を骨折し、うちの組は最下位。ミノルは救急車で運ばれる”恐ろしい未来が待っている。どうにかして阻止しようと考えている時一人も女の子が挙手する。マイだった。マイは運動はできないし勉強も出来ない趣味は占いで根暗な子だったが「私もリレーに出たいからミノル君と変わってほしい」と。驚いた。いつもは無口な事が多い子がそんな事を言った。
だがそれを良しとしないルミ。“「運動もまともにできないあなたがなんでリレーに出るの?バカじゃない?」と文句を垂れている。ミノルはクラスから一目置かれる存在だ。そのスターを選手から外そうとするマイはみんなから罵詈雑言を浴びせられる”。僕も立候補する。気がつけばリレー選手に立候補していた。ミノルもマイも傷ついて欲しくなかった。結局ジャンケンで決める事になり、順番が決まった。1番カオル、2番カホ、3番ミノル、4番僕。順番が変われば未来も変わる。“全員順調に走り余裕で1位を獲得”素晴らしい未来だ。誰も傷つけず、平和に終わる。ルミは若干不服そうだったが元々運動が出来るわけじゃないので納得していた。
放課後、マイに「今日はありがとう、あのままだったらみんなにいじめられてた」と感謝された。僕は問いた「なんでミノルと変わりたかったの?」少し話しづらそうに重い口を開く「占いでミノル君が怪我するのを見た。」やはり分かっていて助けようとしていたのだ。続けて言う「でもあの時ナオ君が挙手してくれなかったら、私この先ずっといじめられてた。だからありがとう」優しい子人だ。自分を犠牲にして他者を助けるのはそう簡単ではない。「いじめなんてさせないよ」と言うと嬉しそうに喜びの笑みを見せ帰っていった。
体育祭当日。
各種目が順調に進んでいく。最後のメイン。クラス対抗リレー。
グラウンドを一人半周、それぞれが位置に着く、ふと観客席を見るとミオが居た。なぜだ。ミオがいる未来は知らない。パーン!空砲と同時ににカオルが走り出した。全クラスの中でもぶっちぎりで早くカホにバトンが渡される。他のクラスが若干の追い上げを見せたが一位のままミノルにバトンが渡された。だがミノルが僕にバトンを届ける事はなかった。未来がいきなり変わった。“ミノルは観客席に見惚れて、足を挫き骨折”10秒先の未来。歓声が恐怖の声に変わる。ミノルの足首は逆を向いていた、すぐさま救急車が到着しミノルは搬送、ルミも泣きながらそれに同行し最悪の結果として体育祭は終了した。
僕はミオの元へ行き「なんで居るの?」と聞いた「きちゃだめ?」と言われたが「いや、でも何もできなかった」と話すと彼女は遠くを見ながら言った「この世も事象は全て偶然ではなく必然なんだよ」と言われた。不思議と納得してしまいその日はお開きになった。