第9話 畑の神
それはどう見ても、牛とスライムがしゃべっているようにしか見えなかった。
モーモー!
ぷる、ぷるぷるぷる……!
プニ助はまた2、3交信すると、アルトの方を振り返って言った。
「神さまがねー。ご主人としゃべりたいって言っているのー」
「僕と?」
モーモー!
「牛がなにかを言いたそうにこちらを見つめているわ」
「でも、牛の言葉なんてわからないよ」
「大丈夫なのー。ボクの身体にさわればいいのー」
そう言ってプニ助はぽよよんっと跳ねてアルトの手のひらに乗った。
≪ア……じ……皇子……アルト皇子よ……≫
すると、牛の方から頭に直接響くような声が響く。
(か、神様?)
≪いかにも。妾はこの畑の神じゃ≫
スライムを媒介して問いかけてみると、なにやら物々しく返ってくる。
美しい女性の声ながら威厳のある調子が本物っぽい。
(……牛が神さまの時もあるだなんて知らなかったなあ)
≪もちろん牛が神の場合もあるが、妾は牛ではない。これは仮の姿……この村も畑が小さくなったのでな。妾のパワーも下がり、今はこうして牛を依り代にして存在を保つことしかできぬのじゃ≫
(へえ、そうなんだ。神さまも大変なんだね)
≪うむ。とは言え、美少年でうわさのタイラント皇子の前でかようなる姿……ちょっと恥ずかしいんだモー≫
(今モーって言った!?)
≪い……言ってないモー≫
(本当に神さまなのかなあ)
≪長いこと牛の姿でおるので時おり精神まで完全に牛化してしまうのじゃ。う、ううう……そろそろ牛化の時間じゃ。単刀直入に申すモー≫
(む、無理しないでね(汗))
畑の神が言うには、この村の畑も以前はもっと広かったらしいのだが、冒険者がいなくなり魔物の区域が増え、村も畑も著しく減っていってしまったのだそうな。
≪魔の森と化した土地には区域ごとにボスがおるし、定期的に周囲の魔物を狩らねば畑を維持することはできぬのじゃ≫
(つまり、ボスを倒してモンスターを狩っていけば、畑を拡張できるってこと?)
≪その通りじゃ。畑が広がれば妾も元の姿に戻れる時も来よう。さすれば100年の豊作を約束しようぞ……モ……モー!≫
こうして畑の神との交信は途絶えた。
「あッ、アルト君! 大丈夫?(汗)」
気づくと、従者のサラがずいぶん心配して手を握っていた。
「ずっとぷるぷる言っているから、スライムになっちゃったかと思ったわ」
「そ、そうなんだ……」
アルト皇子は足元でぴょんぴょん跳ねるスライムを見てつぶやく。
いずれにせよ、この村に『需要』があることは神からもお墨付きが出た。
需要があれば借金はいくらでもできる。
そう。
借金の原資は年貢ではなく、需要なのだから。
「神さまのためにも、早く借金で領営冒険者ギルドを作ってあげないとね」
アルト皇子は瞳を紫に光らせて、町へと引き返していった。
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