なんだこの色男は
というのも、仕事としてみて回るよりも純粋に観光として周った方がカルメリア領の良さが分かるからというのが大きい。
その後にタリム領へと戻ってからカルメリアで何が楽しかったのか、それはどうして楽しかったのか、というのを分析する方が理にかなっているはずとも思っている。
初めから仕事として体験していては、それは仕事として楽しんだわたくしたちが感じた物であり、純粋に旅行として楽しんだ物とはまた感じ方も変わってくるのでは? という考えから二人で話し合って決めた事である。
なので、ここカルメリア領に来た目的を忘れて楽しむための言い訳のために考えたなどという訳ではないのだ。
す、少しも考えていないのかと聞かれれば、素直に考えていなとは言えないのだが、それでもほんの少しだけである。
信じて欲しい。
「なぁシャルロット」
「何ですの? ブレット」
「口にソースがついているぞ?」
「ど、どこですのっ!?」
「嘘だよ」
そんな事を考えてしまうくらいには、私は想像以上にここカルメリア領を楽しんでしまっている。
そんな時屋台で見たホットドックのようなタコスのような、小麦粉でできた生地で具材を挟んで食べるという料理を見つけて、歩きながら食べ終えた所でブレットが私の口にソースが付いていると言ってくるのでハンカチで拭こうとした瞬間、わたくしの口にブレットの唇が重なり『ちゅ』という音が聞こえてくるではないか。
「な、ななっ、なぁっ!?」
「ごめん、口にソースがついているっていうのは嘘だった。 ただ単に俺がシャルロットにキスをしたくなっただけだ」
「な、ななななっ! も、もうっ!! それならそう言ってくださいましっ! 言ってくれればき、キキキ、キスくらいして差し上げましたのにっ!」
「ごめん。 だけれどキスをさせてほしいというのが妙に恥ずかしくてな……」
「そ、そんな事……た、確かに恥ずかしいで──んっ」
不意打ちを喰らう形でブレットからキスをされてしまったわたくしは、ちゃんと言ってくれれば良かったのにと抗議をするのだが、わたくしがブレットに『キスをして欲しい』と聞くのと不意打ちでキスをするのとでは羞恥心が全く異なり、わたくしも同じ立場であれば不意打ちを選んだであろう。
そう思い、確かにブレットの言う通りだと言おうとしたわたくしの言葉を遮るようにブレットが「じゃあ、次はちゃんというよ。 キスをさせて欲しい」と、わたくしの返答も待たずにキスを再度してくるではないか。
なんだこの色男は。