見ることができなかった
ブレットの言葉を聞いた瞬間、わたくしに衝撃が走った。
恐らくブレットは、わたくしが貸し出しているスマートフォンを使って向こう側の住人達と有益な情報を交換しているようで、今回の案もその一つであろう。
もうわたくし以上に使いこなしているようにさえ思う。
そもそもわたくしよりも地頭の良いブレットがネット社会とネット環境を上手く利用できればまさに鬼に金棒状態であろう。
これから、こういう事も少しずつ増えていき、それはわたくしにとって、そしてタリム領にとってとても有難い変化であるのだろうが、なんだかわたくしの元から巣立てって行ってしまうようで寂しとも思ってしまう。
「ん? どうしたんだ? この案にはどこか俺では分かりえなかたデメリットとかがあるのか?」
そんなわたくしを見てブレットが心配してくれる。
「違いますわ。 むしろ良く考えついてくれましたと称賛したい程ですわ」
「だったらどうしてそんな悲しそうな表情をしているんだ?」
「それは……笑わないですの?」
「ああ。 何を言われても笑わないと誓うよ」
そしてわたくしは少しだけ考えた後、ブレットにわたくしの今の感情を伝える事にする。
恥ずかしいという気持ちも当然あるのだが、それよりも『ブレットに勘違いをさせたままで悲しませたくないし、これ以上心配させたくもない』と言う気持ちの方が強いため、わたくしは正直に今の自分の気持ちを話す事に決めた。
「その、寂しいんですの」
「……寂しい?」
「ええ……。 ブレットからもう頼られる事がなくなるんだと思ったら、なんだか生徒が卒業してどこかへ行ってしまうのと重なってしまいましたの」
「あー……なるほどな」
ブレットは揶揄うでもなく笑うでもなく、ただわたくしに寄り添い頭を優しく撫でてくれれる。
「なんとなくシャルロットの言わんとする事がわかる気がする。 でも、それは俺がシャルロットの為に何かしてやれる事はないかと思った結果だし、それに俺がシャルロットの為に何かしたいと思う限り、俺は今まで通りシャルロットに頼る事になると思う。 なんだかんだでシャルロットの向こう側の価値観や、その価値観で見る世界の見え方とかからくる考え方はとても参考になるし、そうは言ってもまだまだ俺よりもシャルロットの方が向こう側の方を知っているからな」
そしてブレットはわたくしを軽く抱き締めると「それに、俺はシャルロットの事を愛しているから。 だからむしろ俺がシャルロットから離れていく事はないし、逆にむしろシャルロットを俺の側から離れさせたくないとも思っている」と囁いてくるではないか。
あぁ、イケボなブレットに耳元でこんな事を囁かれては幸せすぎて妊娠してしまうかもしれませんわ……っ!!
「わ、分かりましたから公衆の面前でそのような事をされるのは流石に恥ずかしすぎますわっ! ど、どうせなら今度二人だけの時にでもごにょごにょ……」
「うんそうだね。 今度と言わずとも今夜好きなだけシャルロットの耳元でどれだけ俺がシャルロットの事を愛しているかを囁いてあげるよ」
「…………は、はい」
そしてわたくしは顔から湯気が出るのでは? と思えるほど顔を真っ赤にして俯き、そんなわたくしの手をブレットが手を握ってくれて、二人観光地へ向かって歩き出す。
この一連の流れをブレットは飄々とやってのけていたように見えるのだが、そのブレットの耳が真っ赤に染まっている事を、自分でも分かるほど熱を帯びて真っ赤になってしまっている顔をブレットに見られまいと俯いて下を向いてしまってわたくしからは見ることができなかったのであった。
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今回のカルメリア観光をするにあたってわたくし達が決めた一つルール、それは観光中は仕事の事やタリム領の事を忘れて全力で観光をするという事である。