私の罪
「え、えーと……それは、そのぉー、言葉の綾と言いますか、何と言いますか……し、失礼しますっ!!」
「逃げたっ!!」
「逃げれると思いなさんなっ!!」
「待ちなさいっ!!」
まぁ、マリーにはこれくらいの罰で許してあげましょう。
何やら遠くの方から女性の悲鳴が聞こえるような気も致しますが、きっと気のせいだと思いますし、これに懲りて少しは大人しくなってほしいものですわね。
そう思いながらわたくしは優雅に紅茶を嗜みながらタブレットで【ママゾン】をサーフィンするのであった。
◆
王国の首都、そこに建つ城にカイザル殿下の婚約者であるマーシー・インスは住んでいた。
普段のマーシーは自分の感情は表に出さず、ただただ周りに流されるだけの人生を送っていた。
ヘンドリク殿下から婚約破棄をされた時は流石に予想外すぎて思考が追いつかず、さらにその直後に隣国の殿下から婚約の申し込みを本人から直接されたのだから余計に思考が纏まらなかった。
そして気がついたらあれよれよとカイザル殿下と正式に婚約をしていた。
お父様もこのチャンスを逃せば次はないと判断したのかカイザル殿下がお熱の内に全て終わらそうと、それはもう今思えばこそあり得ないスピードで私とカイザル殿下との婚約は成立した。
その結果、わたくしはヘンドリクに婚約破棄をされたようにカイザル殿下の婚約者であったシャルロット様へ同じような事をしてしまったのだと、後になって気づいてしまった。
普通に考えればカイザル殿下に婚約者がいる事など分かりそうな事であるのに、それくらいの事すらも考えつく事が出来ないほど、私は、その時の周囲の流れにしがみ付く事で精一杯だったのだろう。
ヘンドリク殿下にもカイザル殿下にもこれといった特別な感情などないので婚約破棄をされて悲しいだとか、婚約して嬉しいだとか、そういった感情はまるでない。
そもそも貴族、それも帝国公爵家であるわたくしは物心ついた時から恋愛とは無関係であり政略結婚が当たり前であると思っていたから好いた惚れたという感情には蓋を閉めて今まで生きてきたのだ。
しかし、そんな私でもシャルロット様へした事がどれ程酷いことか理解しているし、あの帝国男爵家長女であるアイーダ・ウジエッリと同じ事をやったのだと思うと、アイーダと同じ所まで落ちてしまたように感じてしまう。
いや、実際にアイーダと同じ所に私は落ちてしまったのだ。
その事は目を逸らさずに認めなければならない私の罪であるのだから。