例え、槍が降ろうとも
そして、庶民の味方というポジションでいる限り、王国側は庶民の暴動を恐れて潰す事もなかなかできないであろう。
戦争が頻繁に起こっている時ならば言論弾圧などで潰される事もあるのだろうが、今現在そういった戦争もここ数十年無く、平和な日常が続いている今この時代では庶民の暴動というのは避けたい事の一つであろう。
王国もまた、平穏を望んでいるのならば、であるのだが、今の国王陛下ではその点では安心できるだろう。
なぜあの国王陛下からカイザル殿下のような目先の事や周辺の事柄を考えられない人物が生まれたのか不思議である。
または、何をやらせても優秀な成績や結果を残して来た国王陛下でも子育てだけは苦手だったとかいう事だろうか。
どのみち国王陛下も人の子だという事だ。
「あとは、新聞社を作る事により、庶民を簡単に扇動し、動かすことが可能ですわ。 これは王国側からすれば国民を人質にされているのと同等の圧力をかける事ができましてよ?」
「……よ、容赦ないな、シャルロットよ」
「当たり前ですわお父様。 やるかやられるかですもの。 賭けたものは自分の命ですもの。 手は抜きませんわよ」
「ほ、ほどほどにな」
そんなこんなで新聞社設立についての説明を一通り終えて本日の会議は終了である。
そして、次会議からは新聞社設立に向かって具体的な案を出し合って行く流れである。
あぁ、今から新聞社設立の日が待ち遠しですわ。
「なぁシャルロット。 少し良いか?」
「何ですの? ブレット。 そもそも私達は婚約者ですからそんなにかしこまらなくても良いですのに」
「そ、それもそうだな。 じゃ、なくて。 もしシャルロットさえ良ければ明日デートに行かないか? 明日は会議も学校も無いし……も、勿論シャルロットが嫌だと言うのであれば──」
「嫌ではございませんわっ!! 行くっ!! 絶対に行きますわっ!! 例え、槍が降ろうとも行きましてよっ!!」
「いや、流石に槍が降ってきたら危ないからデートは中止だろう……」
「そのくらいの天変地異が起きない限りデートの中止はしないという事でしてよっ!!」
そして今日も何事もなく一日が終わる。
明日はとても楽しい一日になりそうだ。
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今思えば俺たち二人は婚約者という立場でありながら、一度も婚約者らしい事は一度もした事がなかった。
そういうのは基本的に男性からお誘いするというのは頭では分かっていても婚約に至るまでの経緯が経緯である為、もし断られたらと思うとなかなか誘う勇気が出なかったのである。