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記念日

「……ああ」


 そしてブレットはわたくしの言葉で空気が変った事を察して、真剣な表情へと変わる。


 むしろわたくしとしてはサラッと言ってしまいたかったので、逆に真剣な表情をされると困るというか何というか。


 しかしながら吐いた唾は飲み込めないし、動き出した列車は急には止まれないので今さら無かった事には出来ないと悟る。


 ええい、ままよっ!! 


「ブレットは、パーティーでわたくしと婚約しているのだと他の貴族達に見せつけたのだけれども、わたくしのお父様には、その、あの、婚約の旨は伝えないのかな……? なんて」


 そしてわたくしはついに言う事が出来た。


 後はブレットの返事を待つのみであり、煮るなり焼くなりお好きにどうぞっ!! と待ち構える。


「シャルロット」

「ひゃ、ひゃいっ!!」


 最悪だ。 大事な場面で声が裏返ってしまったではないか。


 穴を掘って入りたい気分だ。


「シャルロット、本当に君のお父様へ報告しても良いんだな?」


 そう言いながら見つめて来るブレットの瞳にわたくしは思わず吸い込まれそうになる。


「良いも何もそう言っておりますわ。 そ、それでブレット的にはどうなんですの?」


 逃げるならば今ですわよ。


 でも、お願いだから逃げないで欲しい。


 あぁ、この一瞬がとても長く感じてしまいますわね。


 もうわたくしの感情は、恐怖と期待でぐちゃぐちゃである。


「そうだな、シャルロットが良ければ直ぐにでも君と婚約したい旨を告げたいと思っていたのだが、今までこの一言を言うのが怖くてなかなか言い出せなかったんだ。 その結果が君に言わせてしまうなんて、いち男として情けないと打ちひしがれてしまいそうだよ」

「あぁ、ブレットの男としてのプライドなどどうでも良いわっ!」

「どうでも良いっておまえなぁ。 それはそれで傷つくんだが」

「だって、そんな事などブレットと婚約できるという事と比べれば些細な問題ですものっ!!」

「まぁ、確かに。 シャルロットと婚約できるのならば俺の男としてのプライドなどちっぽけな問題だな」


 そしてわたくしは喜びの感情そのままにブレットの胸へと飛び込んでいき、わたくしの身体をブレットがその鍛え抜かれた身体で受け止めてくるくると部屋の中で回りだす。


「今日この喜びをタリムの領民たちにも分け与えてあげたいほどですわっ!! そうだっ! この日をタリム領の記念日にしちゃいましょうかっ!!」

「いや、それだけは止めてくれ」


 そんな事を言い合いながらわたくしたちは気が済むまでくるくる、くるくると回るのであった。

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