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石焼き芋

 そして、爺やには土地の購入の際、即座に住める環境であれば尚いい事を告げて別れる。


「とりあえずは、この『石焼き芋』という物と『とんじる』スープから食べてみようか」

「そうですね。 良く作られている料理ほど地域の差や、その地域の料理の質と傾向がある程度は分かりますからね」

「ふむ、それにしてもやけに細長く、赤い色をした芋なのだな。 芋の割には行列が出来ていたのだが、それでも所詮は芋であろうに」

「バターも何もくれませんでしたね。 これ一本で王都の煮た馬鈴薯よりも気持ち高かったですし、足元を見られた可能性もありますね」

「うむ。 もしくは、一言言えば貰えたのやも知れぬが今更戻った所で余所者と恥をかくだけだ。 それにこの『石焼き芋』とやらを買うときは誰もバターを店主に求める者など誰一人としていなかった。 という事は元々バターは付いていない可能性もあるし、この『石焼き芋』なる食べ物はバターを付けずに食べるのがここの流儀なのだろう。 ならば、初めはそのままで食べてみようではないか」

「それもそうですね。 しかし、ただ芋を小石の上で温めていただけでバターはおろか塩などすら味付けという味付けをしていなかったように思うのですが、本当にあれほど行列ができるものなのか、私には不思議でなりません」

「まぁ、それも含めて、この『石焼き芋』を食べてみればわかる事ではないか」


 そして私達はこの『石焼き芋』なるただ芋を温めただけの料理と呼べるのかも怪しい食べ物ひとつであーでもないこーでもないとシェフと語り合う。


 シェフと料理について語り合う時間は、何だかんだで楽しいものだ。


「ほれ」

「ありがとうございます」


 この『石焼き芋』を二つに割って、片方をシェフに渡し、コツンと当て合い乾杯の真似事をした後、一緒に一口に入れる。


 そして口の中に広がるは完成された甘味であった。


 惣菜の一種であると思っていた私は甘い事に驚かされたが、次いでその甘さに、更にその完成された一品として既に出来上がっている事に、と続け様に驚かされ、言葉すら口にするのも惜しいとばかりに夢中で『石焼き芋』を頬張って口の中へと入れていく。


 それはシェフも同じであったらしく、横を見ると私と同じように『石焼き芋』を頬張るシェフの姿がそこにあった。


 そして、あっという間に『石焼き芋』は私の腹の中へと消えていく。


「ただ、石で温めただけの芋……だというのに、何だこの料理は……」


 本当はこんな物を料理などとは呼びたくも無いのだが、そんな事など取るに足らぬ事だと思える位には今まで食べてきた甘味の中で上位に食い込んできていた。 

 

 それこそ『ちよこれーと』に迫る程である。

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