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これ程までとは

 そう言われた瞬間、私は美食家としてのプライドをズタズタにされたような錯覚に陥ってしまい怒りで爆発しそうになるも、ここでキレてしまってはそれこそ美食家として地に落ちてしまうと思い、寸前の所で抑える事ができた。


 このシェフもまた、私の美食家としての一つの成果だとすれば、そのシェフが知らないと言う事を罵倒するという事は巡り巡って私自身を罵倒する事になるのだ。


 それでも、怒りが収まる訳ではなく、握り拳を真っ赤にして耐え凌ぐ。


「……………………行くぞっ!!」

「……………………え?」

「私達の負けを認めようではないかっ!! ならば実際にタリム領へ行き、さらなる美食の追及をしようではないかっ! 今我々は教える側ではなく、教えを乞う側であるっ! こうしている間にもライバルたちに出し抜かれている可能性もあるのだっ! こうしては居れぬっ! オイッ馬車を用意せよっ!!」


 思い立ったが吉日。


 いや、おもちゃを前にした子供のようにいても経ってもいられず、私は使用人に馬車を用意させ、その日に数名のシェフと共にタリム領へと向かうのであった。



 ◆



「な、なんだこの町は……。 たった数年来ないだけでこれ程までに発展したとでも言うのか。 まるで夢を見ているようだ。 魔女にでも化かされたと言われた方がまだ納得できる」


 数年ぶりに訪れたタリム領なのだが、私の記憶にある景色と何もかもが変わっており、そして現在進行形で物凄いスピードでさらに成長していっているのが見てわかる。


 私の記憶の中のタリム領と言えば公爵家が治める領地という事だけが取り柄の、何もない領地であった。


 あるものと言えば、山と山との間の開けた場所に作ら麦畑に街、そしてタリム川といった少しめの農村といった感じであった。


 よく言えば風情と落ち着きがある、悪く言えば観光地も特産品も何も無い街である。


 それこそまだ周囲の国々との争いが激しかった時は周囲に囲まれた山々と、横を流れる川に、その川を利用して街を囲うように作られた水堀のお陰で王国で最も安全な場所であり、この領地が落とされたら王国の終わりと言われる程の要でもあった。


 しかし、ある程度王国や周辺国が落ち着いてきて、平和になってくると山々に囲まれた立地が邪魔をし、次第にゆっくりと人々の記憶から忘れ去られていっている領地。


 それがタリム領であった筈である。


「凄い凄いと聞いてはいたが、これ程までとは……美食家として恥ずべき事だな」


 私は、自分でも知らないうちに今の現状に満足してしまっていたようである。


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