唐変木
「それ、単なる言い訳で本当は覗きたいだけですわよね?そもそも今日日国王陛下の子作りくらいしか聞かないですわよっ!!」
「バレちゃいましたか」
そしてわたくしが突っ込むとマリーは『てへ』っと可愛らしく舌を出す。
その様は全くもって悪いと思っていない事が分かる。
「全くもう、次からはやめなさいよ?」
「わーかりましたーっ」
一応忠告はしておくのだが、帰ってきた返事は軽く、とても信用できない為マリーの頭をアイアンクローの要領で鷲掴みにするすと、顔を近づけて視線を合わせる。
「分かったわね? 次は無いですわよ?」
「は、はいっ!! 勿論で御座いますっ!! 私、嘘つかないっ!!」
「本当かしら?」
「本当でございますっ!!」
「…………よろしい」
「そ、それでは失礼しますっ!!」
そしてわたくしの手から離れたマリーは、まるで罠を解かれた野生動物の如く物凄い勢いでわたくし達の部屋から文字通り脱兎の如く逃ていくのであった。
◆
正直言ってあの壁の穴に気づけなかったと思うと、俺自身どうなっていたか分からない。
ただ、自分の性欲を制御できる自信は無い事だけには自信がある。
そもそも、壁に覗き穴があると分かっていても風呂上がりのシャルロットを見た時は本当に危なかった。
正直言って今でもあの姿と香りを思い出すだけでかなりヤバい。
両思い。
その事実が今まで我慢してきた俺の枷を弱くしているのも確かである。
いや、あの場で言った告白がどこまで真実であるかは分からないのだけれども、それでも腐っても王族が開いたパーティーで、大勢の目がある中俺達は告白しあったのである。
恋愛感情が無くとも、嫌いな奴とはそういう誤解されかねない行為はしないと俺は思う。
「ねぇ、ブレット」
「なんだ? シャルロット」
「ブレットって唐変木よね」
「は?いや、そんな事はないと思うぞ」
「……だったらキスの一つや二つくらいしなさいよ」
「え? なんて?」
「な、何でもないですわっ!! わ、わたくしはもう寝ますっ! おやすみなさい、ですわっ!」
「お、おう。おやすみ……」
一体、いきなり何だったのだろうか?
そもそも唐変木と言うのであればシャルロットの方が唐変木では無いのか?
今日も俺はかなり分かりやすいアピールしたつもりだったんだが……てかあれは最早告白だろう。
むしろあれで気付けないのならば、どうすればいいか俺にはもう分からなくなってきた。
それでも、シャルロットを他の誰かに渡すつもりなど毛頭無いし、シャルロットを御しきれるのは俺しかいないと自負している。
そして俺は『すーすー』と寝息を立てるシャルロットを眺めるのであった。