外堀が埋められている
「……あれ? 恥ずかしいのかな? 逃る必要など無いのに。 もしかして皆んながいる前だと恥ずかしいのかな? でも大丈夫さ。 ここにいる皆んなならば祝福してくれるさ。 さぁ、今度はちゃんと俺に抱擁されるんだぞ?」
そしてレオポルト殿下はそう言いながら今一度わたくしに抱きつこうとして来るのだが、今度はわたくしに近づく前にブレットがレオポルト殿下の後ろから肩を掴むとそのまま勢い良く後ろへと強引に引き戻す。
「他人の婚約者に何をしようとしているのですか? レオポルト殿下。 流石にコレにはレオポルト殿下であろうとも言い訳の内容次第では国王陛下に申さなくてはならなくなりますが?」
「………は? 他人の婚約者?」
そしてブレットは以前話した作戦通りにわたくしの事を婚約者という体で演技をするのだが、ブレットの見るからにブチ切れいる表情とドスの効いた声は、演技だと知っているわたくしが聞いても本当に怒っているかと錯覚してしまう程の完璧な演技であった。
寧ろ完璧過ぎて不敬罪で捕まりやしないかと見ているこっちがヒヤヒヤしてしまう程である。
それにしても、あんなに真剣に『俺の愛する愛しき婚約者(シャルロットの脳内変換により多少ニュアンスが変更されております)』だなんて……演技だと知っているのに口元がニヤけてしまうのが抑えられないっ!
「俺の婚約者であるシャルロットも恐怖で俯いてしまい、震えているのが見えないのですか?」
違うのっ、違うのよブレットっ! 貴方がわたくしの事を婚約者と言う度に『婚約者』というフレーズの破壊力が凄まじく、嬉しすぎて口元がニヤけてしまうのを隠すために俯いているのですけれど、ニヤけるのを我慢しようとしている為身体が震えてしまっているだけですわっ!
だって、今貴方の口から何度も出て来て『婚約者』という言質を、音声保存用に加工された魔石数個にしっかりと言い逃れなどできようはずもない言質を保存出来た嬉しさを我慢するだけで精一杯ですのっ!
後は彼の両親とわたくしの両親、両家交えて先程保存した音声を聴かせてあげれば、もはや婚約というのをすっ飛ばして結婚という話まで一気にいくかもそれないのである。
まるでブレットを騙してしまっている様に見えるだろうが、貴族社会というものはそういうものであると諦めて頂きたい限りだ。
「あぁ、可哀想に」
そんな、裏切り行為とも取れる行為を裏で計画しており、順調に外堀が埋められているとも知らずブレットは優しく接し、そして上からコートをかけてくれる。