誓い
そう自慢げに話すレオポルト殿下なのだが、周囲からすれば婚約破棄した令嬢ともう一度婚約を結び直すという事が信じられないみたいで、いくらこの国の継承権第一位カイザル・ユリウス・レオポルト殿下の言葉であったとしてもそれを素直に受け取る者は居らずざわめき始めると共に、一度婚約破棄をした女性を再度婚約しなければならぬ程ここグルドニア王国はヤバい状況なのかと勘繰る姿勢がそこかしこで見える。
故に王族は今、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長しているランゲージ家との繋がりを欲したのではないか、と。
そんな周りの異様な空気を全くもって気付けていないレオポルト殿下は、まるで離れ離れになった恋人と再会を果たすような、感極まった表情でわたくしの方へ向かい歩き出す。
いや、昼に一回会ったでしょうがっ! と、ツッコミを入れる事が出来るのであればどれだけ楽であったか。
そもそも、レオポルト殿下はわたくしが、か・な・り・怒っている事にそろそろ気付くべきであろう。
「すまない、待たせてしまったね」
「いえ待ってなどおりませんでしたわ。 ですので気を使う必要などございませんわ」
「どうしたんだい? シャルロット。 以前の君であればそんな嫌味の様な事を俺に言う事など一度たりとも無かったじゃないか」
あら、今回は嫌味と理解する事はできたんですのね。
「当たり前ですわ。そもそもわたくしは既にレオポルト殿下の婚約者では御座いませんもの。婚約者でもない殿方を待つ必要など無いで御座いましょう? 違いまして?」
「あぁ、あの日婚約破棄をされた事に、本当は傷ついていたんだね? だから今こうして俺に感情をぶつけて来ているのだろう。でも、もう安心して大丈夫だからね。俺はもうシャルロットを手放す様な馬鹿な真似はしないし、一生をかけて愛すると、この王国に誓うよ」
あぁ、コイツ、王国にわたくしの事を一生をかけて誓いやがった。
それも、これ程のギャラリーがいるど真ん中、そして今現在その全員がこの茶番劇に注目していると言うのに。
これではもう、言った言わないなどという水掛け論すらできないだろう。
そして、王国に誓ったからにはレオポルト殿下はわたくしの事を一生かけて愛さなくてはいけなくなった。
王位継承権がある王家の血を引くものが国に誓うという事はそういう事である。
そんなヤバめの誓いをしたとは少しも思っていない事がその表情からも読み取れる、自分の世界に入ってしまっているレオポルト殿下は、そのままわたくしに抱きつこうとするのでわたくしは思わず後退りをしてレオポルト殿下からの抱擁を回避する。