タリム領へようこそ
そして崖から飛び降りるような心境で私はついにタリム領へと着いた。
後は門を潜って外壁の中へと入るだけである。
当初こそ門に並ぶ馬車の列の長さにげんなりしたものであるが、私が想像していた以上に馬車はスムーズに移動して、遂に私達の馬車の順番が来た。
そして何故こうもスムーズに馬車が移動できた理由を検問で理解出来た。
私達を運んできてくれた人が懐から掌程の大きさの布を取り出すと、その布に棒状の見たこともない物でかざした後、たったそれだけで私達が乗った馬車は門の中に入る事が出来た。
因みに外壁の外にはタリム領に入れなかったであろう者達や、または宿代をケチる為なのかテントを張って生活している者達がチラホラと見えた。
それだけ噂を信じて来た者達が多いという事でもあるのだろう。
そんなこんなで何無くタリム領に着いた私達は、馬車から降りて別途個室へと連れられる。
どうや外壁毎の検問は馬車の御者と馬車のみに適応されているらしく馬車に乗っていた乗客はまた別であるという事らしい。
もしかして追い出されるかもしれない。
そう嫌な予感がしたのだが、それは杞憂に終わり、ここに来た理由と布製の通行手形を渡されて終わった。
どうやらこの通行手形には特殊な光を当てると光る塗料が塗られており、それで偽造か偽装ではないか、問題を起こした事のある者か、そうでないかというのが一目で分かる仕組みになっているらしい。
それであんなにスムーズに捌けていたのかと感心してしまう。
そして、私達の様な者達がタリム領に来るのも多いらしく、担当してくれた女性の方は慣れた手つきで私達の素性を聞き出し、それを書き写していく。
そして最後に『しゃしん』という道具を私達に向けて眩しい光を光らすと『しもん』というらしい指の皺をインクで写しとらる。
「はい、問題ありませんね。ようこそタリム領へ」
そう告げてくれる担当のお姉さんはとてもいい笑顔で、そして自らの仕事に誇りを持っているのが分かった。
どうやら『女性でも、身体を売らなくても仕事について子供を養えるくらいは稼ぐことが出来る』というのはどうやら本当らしい。
そう思うと少しだけ心が軽くなる。
「えっと、こちらかしら」
そして私は先程の担当してくれたお姉さんが教えてくれたギルドへと向かう。
担当のお姉さん曰く、母子家庭の場合は援助を受けられる可能性が高いとの事。
背に腹は変えられないので、援助を受けられるかもしれないのならば行かないという選択肢は今の私には無い。