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掌編小説集10 (451話~最新話)

男と熊

作者: 蹴沢缶九郎

都会から離れた山村に、妻と二人で暮らす男がいた。通勤には不便だが、喧騒から放たれ、空気が美味しく、何よりゆったりとした時間の流れるこの場所を男はたいへん気に入っていた。


ある休日、自室でくつろいでいた男の耳に、妻の悲鳴が聞こえた。驚いた男が悲鳴の聞こえた居間に向かうと、居間のガラス戸を破り侵入してきたのであろう熊が、妻に覆い被さり、今にも襲い掛かろうとしている瞬間だった。


「あ、あなた、助けて…」


妻は男に手を伸ばし助けを求めた。

しかし、男は熊を追い払うでも、助けを呼びに行くでもなく、身体を震わせながら熊が妻を襲う様子を見守っていた。



遡る事数日前、男はテレビのニュースを見ていた。


「町に現れた熊ですが、間もなく猟銃で射殺され…」


ニュースを見終えた男はおもむろに立ち上がると、どこかへ電話を掛けた。電話対応に出た相手に男は烈火の如く怒りをぶつけた。


「おい、ニュースを見たぞ!! 熊を射殺するとは何事だ!!」


相手は恐縮して答えた。


「ごもっともではございますが、この間射殺した熊は農作物を荒らし、人間をも襲っておりました。一度人間の味を覚えてしまった熊は…」


「うるさい!! そんなのは人間の勝手な都合だ!! 熊だって生きている!! そもそも熊の住み処を奪ったのは我々人間なのだ!!」


そんな様子で男は相手を一方的に怒鳴り付け電話を切った。



「あ、あなたお願い…、助け…て…」


妻が助けを求めるのも虚しく、熊は妻の身体に何度も牙を突き立て、やがて妻は事切れた。

男は目に大粒の涙を浮かべ、呆然と立ち尽くしていた。

男は自分の筋を通したのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんともいやはや。 妻じゃなく自分が襲われた方が楽だったし、筋を通す意味もあっただろうと思われ、空しさが止まりません。
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