緑とピンクの計画
ヘンリー様の作業しているテーブルに書類はなく、全てヘンリー様が片付けた。
ヘンリー様は椅子に座り腰に手をやっていた。
中腰になり腰に負担がかかるのだが無理して立ち仕事をして、書類を急ぎ捌いたのだ。
私は、そのテーブルの上に地図を広げる。
領都でヘンリー様と一緒に入った喫茶店のマスターさんが見せてくれた地図と同じ縮尺の地図と、リアルガー伯爵の管理している領土の地図。
それと数冊の資料となる本をを置く。
私は本のしおりを挟んだページを開ける。
アーモンドの花の挿絵が描かれているページ。
それと、別の本から桃の花の描かれているページを開け、ヘンリー様の前に出す。
そして、リアルガー伯爵の管理している領土の地図を指さす。
「まず港町ピンクスピネから、陸地に向かって隣町が、今私たちがいる保養地ピンクアメジ、そして禿山を越えると、陶芸工房のあるピンクカルサの町があります。」
私は、再び資料となる本を開きヘンリー様の前に出す。
「この禿山にアーモンドの木を植え、アーモンドの収穫をよくするために桃も植えます。」
先に出した2冊の本の挿絵を手で指し示す。
そして、後から出した本を2冊の上に置く。
「禿山の一角に蜂箱を置き、蜂蜜を収穫します。」
次に地図の山の麓を指さす。
「禿山に近い場所に3箇所、孤児院がございますので、アーモンドの収穫、桃の収穫、蜂蜜の収穫の委託をさせます。」
蜂蜜の収穫までさせる事に驚いていた。
「そして、リアルガー伯爵の屋敷の庭で、ピンクのバラを数種類植えて貰います。」
リアルガー伯爵の屋敷は、西側の端の中央
私はまた別の本を取り出し、そのままヘンリー様に渡す。
ヘンリー様はその本を開きページをめくる。
緑の生垣の種類が描かれている本。
「この宿の庭は緑一色のみにします。」
そうすることで、町の景色と別の景色を見せるとともに、違いを楽しむことが出来る。
あえて宿を一色にしたのは、保養地の中心が温泉だから、落ち着きのある趣きを持たせるためだ。
「そして一般家庭の庭なのですが・・・。」
私は、作業机の造りかけの箱庭を持ってきて、ヘンリー様の前に置く。
「こちらはアジサイを植える事を了承してくれたお宅の模型です。」
アジサイは石灰の肥料を与える事で、ピンクを保てることを伝える。
「サーシャ。アジサイだけの庭にはしないのだろう。」
ヘンリー様は、私を寝室へ運ぶ際に本を見ていたのね。
「はい。」
私は、ヘンリー様も見たであろう、本のページを開けて見せる。
「マルベリーです。」
実をそのまま食べるもよし、ジャムにするもよしの実のなる木
だけど、それだけではない。
「きの・・今日ですね。行った教会なのですが、そこにはマルベリーの他に椿を植えて貰います。敷地は広いですので、ルベライト城にある温室のような設備を建設。」
クレシダが来た時に、一緒に寝ることができた温室だ。
「そちらの中に、マルベリーを植えて貰うのですが・・・そこは蚕の産卵のための場所にします。」
マルベリーは日本語で桑の実
その葉は、蚕が食べる葉だ。
「別にもう2つ別の建物を建てて貰います。」
一つは、蚕からとれる絹を作る建物。
もう一つは、椿油を作り出す建物。
「今日見学した教会の周りは、低所得者の家が立ち並んでいました。そちらの庭に椿とマルベリーを植えて貰います。」
そして、桑の葉と椿の実を教会に売り、臨時収入を手に入れさせる。
他のそれなりの収入の家庭は、桑の葉を寄付させる。
教会に寄付するだけの余裕がなくても、庭にただ植えているだけの葉で寄付が出来るのだ。それも木の実は食べられる。
「そして、教会で出来た絹糸なのですが・・・。染色に織物そういった工房に適した場所。」
「ピンクカルサということか・・・。」
私は、ニコっと微笑み頷いた。
「そちらの町は、工房の町としての発展でよろしいとは思うのですが・・・。」
ヘンリー様は、考えている事があれば言えと言われてしまった。
「ピンクカルサの町には、牡丹と芍薬を植えて貰います。」
牡丹の花も芍薬の花にもピンク色がある。
「その植物なのですが、お薬の材料となっています。将来的に薬品工場を建てるのもよろしいかと思います。」
私は、本のページをめくり牡丹と芍薬のページを開きヘンリー様に渡す。
「ご覧になっていただけるとわかりますが、そちらの植物、結構ゴージャスな花となってます。観光地に打ってつけではありませんか?」
私は、観光地の拡大計画も狙っている事を伝えた。
だって、ヘンリー様と私が選んだ、ヴァネッサさんの誕生日プレゼントのティーセット。
相当気に入ってくれて、朝のモーニングティーの際にいつも使ってくれているのだ。
是非、保養に来た際にピンクカルサまで立ち寄り、陶芸を買っていただきたい。
そのためには、山を越えピンクカルサまで観光地を拡大したいのだ。
「それで・・・まだ港町の話はしていないな。何を企んでいるのだ?」
ヘンリー様、企んでいるなんてひどい言い方ではないかしら?
と、思いながら顔は笑っているのが分かった。