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認識するモノ

 カリスタ様が私の額に置いてくれたタオルを再び冷たい水につけてくれた。

 そして、額だけでなく目もとまで広げて渡り濡れタオルが置かれる。

 「140年前、エリックは負傷したのだ。流れ矢が足の付け根に深く刺さったんだよ。」

 ?!

 私はせっかく濡れタオルを置いてくれたのに、飛び起きるように顔を元の位置に戻し、ハミッシュ様を見る。

 「それって・・・子供の基となる場所を怪我・・・した?!」

 ハミッシュ陛下は頷いた。

 「だが、エリックの命が助かっただけでも奇跡だったんだよ。ヴァネッサの献身な看病の賜物なのだがな。」

 傷口の衛生を怠れば感染症で死ぬ恐れもあった。

 それなのに、怪我をしたとも思えない軽やかな足取りを今はしている。

 だが・・・エリック様は子を産ませてあげられない体となった。

 「とんでもない後遺症だよな。」

 ハミッシュ陛下は憂いに満ちた顔でため息をつく。

 「悲しいですね。前世の医療技術では、その問題解決が多少強引ながらできるのに、この世界はそれがない。」

 知らなければ、残念で片付くが、その知識があるからもどかしいと思う気持ちがどうしてもぬぐえない。

 「エリックの体の事実を言えば、ルベライト公爵家は決断をしなければならない。間違えなくヘンリーが被害を被ることになるし、それを受け入れないとならない立場でもある。」

 事実を伝えないでいるのは、決断を先延ばしにさせているから。

 ヘンリー様の心にいるリオンへの気持ちを自ら断ち切るのを待っているのだ。

 「パーティー会場にサーシャが乱入してくれた事で決断がまた先延ばしされたと認識している。だから感謝する。」

 ハミッシュ陛下がお礼を言った。

 「お礼を言われる事はしてませんよ。どちらかと言えばお礼を言うべきは私なのでは?こんなふらふらな状況なのですよ。」

 ハミッシュ陛下は鼻で笑う。

 私は再び顔を上にして額から目にかけて濡れタオルを置いた。

 ”ふわっ がさがさ”

と、柔らかいが涼しい風が脱衣所に流れてきた。

 「ふっ」

と、ハミッシュ陛下が笑う。

 私は、気になり動こうとするが、そのままでいろと静止させられる。

 「サーシャはヘンリーの事をどう思っているのだ?」

 ハミッシュ陛下の質問に、一言で答えるなら・・・やはり。

 「お色気魔人。」

 「プフッ・・アハハハハッ クククッ ハハハハッ」

 私の一言がツボったらしい。大笑いするハミッシュ陛下。

 でも・・まあ、聞きたいことは違うのだろう。

 「領主としての能力なら優れています。」

 私は断言して言える。

 「ルベライト流の統治方法でない事で領民受けせず。過去の栄華がどうとか領民には嘆かれているようですが、それでもヘンリー様らしく逃げる事なく、ひた向きに向き合っています。・・・素晴らしい事です。」

 私は自分の生まれ故郷の領地で、それを全くしてあげられていない。

 私の紫色の瞳に騙され、騙して・・・最後は逃げた。

 最低な人間だな。

 「ルベライト流の統治方法は、領民一体型に見せかけての作業・・歴代の公爵には、笑顔でごり押し統制なんてしていた者もいたのではありませんか?」

 失礼な言い方をしているにはわかっている。

 表情の豊かさで領民に近い存在をアピールし、多少無理な案件でも、笑顔でごり押し許してもらう。

 そんな風にこのルベライト領を統治してきたのだ。

 だが、ヘンリー様は表情が豊かではない。

 唯一笑顔は過去出来てはいたが、リオンが亡くなった事でその表情も作れなくなった。

 だからこそ、本当の意味で領民に近い場所に立っている。

 「ヘンリー様の神業的速読と書類捌きは、きっと領民との時間を作るために築き上げた技術かと推測できます。その様な方が領主として衰えているなんて、失礼にも程がある。」

 どんだけ領民の事を想って行動をしている人なんだろう・・・私にはないモノがヘンリー様にはある。

 「失礼であっても・・・ヘンリー様は、受け入れ向き合うのでしょうね。・・・・信頼に値するお方です。」

 私は、断言しハミッシュ陛下に伝えた。

 「・・・うん。」

 ハミッシュ陛下は頷いた。

 「そろそろ部屋に入りましょう。」

と、カリスタ様が言い。脱衣所から部屋へと戻った。


◇ ◇ ◇


 「・・・良かったな。」

と、父上に声をかけられ、後頭部を撫でられる。

 何十年ぶり・・百何十年ぶりになるのか、父上に頭を撫でられるのは・・・。

 俺はサーシャが心配で屋上露天風呂から回って、客用の露天風呂まで来た。陛下の大笑い声が聞こえて、俺の話になったので脱衣所に入りずらくなり陰から見ていた。

 父上も影から一緒に見ていたのである。

 「ヘンリー、お前はサーシャの事をどう思っているのだ?」

 優しく諭すように父上は俺に言ってくる。

 「・・・そばにいて欲しいと思う。」

 「それは、どうしてだ?」

 ・・・・答えが出なかった。

 「考えてみてくれないか・・・これからもサーシャには、ずっとそばにいて欲しいのだろう。」

 そういうと父上は部屋に戻ると告げ、屋上露天風呂の方へと戻っていった。

 「そばに・・・ずっとそばにいて欲しい。」

 ・・・リオンとは違う。

 リオンに抱いた家族であり続けたい感情ではない。


 ・・・・サーシャの全てが欲しい。


 この日・・・俺は、サーシャが好きだと認識した。 

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