あかの悲壮
西の空に夕日が沈むころ。
パーティーは終わり、招待された貴族たちは帰っていった。
私は・・・ダウンした。
いろんな方々からダンスを申し込まれ、立場上お断りできずにクルリン、クルリンとダンスを重ね。
手のみならず、足までも痙攣した。
そして、現在、王妃のご厚意で、客用の温泉をお借りしてます。
温泉の縁に頭を乗せ、後は温泉に浸かる。
オレンジの空から星々が見え始めるのをボーと眺めていた。
極楽・・・と言えるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
そろそろ水分を補給しないとな。
一端、温泉から出て、ふらふらの状態で脱衣所へ
脱衣所の小さなテーブルには水差しとコップが置かれていて、私はその水を2杯飲み、再び温泉へと浸かる。
痙攣がだいぶ治まり温泉からでた。
あらら?
水分補給をしっかりしながら温泉に浸かっていたのに、体がふらついてます。
脱衣所で再び水分補給をしてから、寝巻に着替える。
「サーシャさん。大丈夫・・で、ないわね。」
カリスタ様は私を脱衣所のベンチに座らせる。
そして、カリスタ様は脱衣所を出て部屋に入っていく。
すぐに脱衣所に戻ると、その後ろにはハミッシュ陛下がいた。
「サーシャ、湯あたりって知っているか?」
・・・・今、思い出しました。
そのことを素直に言うと、ハミッシュ陛下は私の隣に座る。
カリスタ様に上を向くように指示をされたので、その通りにすると、濡れタオルを額に乗せてくれた。
・・・気持ちいい。
私は目を瞑り落ち着く。
その私を見てか、カリスタ様は安心して私の隣に座る。
「初めて会った時の様になってますね。」
聖ライト礼拝堂にて、私を落ち着かせるために右にカリスタ様。左にハミッシュ陛下で、私が真ん中で長椅子に座ってたっけ・・・。
「ルベライト領に来て半年ぐらいか・・・どのようにルベライトを感じた?」
ハミッシュ陛下の言葉に考え込む私。
カリスタ様が心配そうに声をかけてくる。
「すみません。何から話せばいいのか・・・何せ、いろいろとあり過ぎますから。」
ハミッシュ陛下は『そうだろうね』と、当然のように言った。
そんなところに私を放り込んだのかよ。
・・・まったく。
「気になったと言うか・・・何か腑に落ちないというか・・・。」
腑に落ちない事は多々あるが、時に気になったこと。
・・・タイムリミットがありそうなモノから言おう。
「跡取りの事が気になりました。」
このままでは、ヘンリー様の気持ちを考えずに子供を作る事になる。
悍ましい光景をルベライト公爵家のメイドとして、それもヘンリー様専属のメイドとして見ないとならない。
・・場合によっては協力をしないとならない事になるのか?
そうなったら、とんだ悪役メイドだな。
「ヘンリー様はリオンの事を忘れられないでいます。ですから、ルベライト公爵の跡取りを両親であるエリック様、ヴァネッサ様に産んで欲しいと思っているようです。」
だが、それが叶えられていない。
エリック様も、ヘンリー様に弟か妹を作ろうと望んでいるにも関わらず出来ない事を伝えた。
「無理だろうな。」
と、ハミッシュ陛下が言う。
それも、断言している。
ハミッシュ陛下・・言っている意味、わかっていますか?
「ピューゼンとの戦いでの事は知っているか?」
私は60年前の終焉の戦いの事をあげる。
「その戦いではない・・・その戦いだと変だと思っただろう。」
私は頷く。
「俺が3歳だから・・・ちょうど140年前か」
140年前にもピューゼンとの戦いがあったと教えてくれた。
ああ、その時にヴァネッサ様にエリック様が、ヘンリー様に兄弟をというくだりは当てはまる。
・・・なるほど。
でも、そうしたら140年にも渡って子作りに励んでいるという事になる。
・・・恐ろしくないか?
「ピューゼンの戦いでは、どうしても赤いドラゴンは標的にされる。」
ピューゼンのドラゴンの大樹を破壊した精神崩壊したドラゴンが、赤いドラゴンだった為、目の敵にされている事を説明を入れてくれた。
「だから、エリック様のお父様も、お祖父様も・・・。」
140年以上前のピューゼンとの争いの標的にされたのか・・。
「ジジイ様が、ヘンリー様と絆を結ばなかったのは・・。」
「赤いドラゴンだからだろうな・・・だから、赤い色を表す臙脂という名で呼ばれるのを嫌がるのだろう。」
心を締め付けられた。
私の想像しているよりも、ずっとジジイ様はヘンリー様の事を想っている。
だから、絆を結ぶのを躊躇ったんだ。
ヘンリー様の幼少期の遊び相手だったジジイ様だ。
本来ならすぐにでも絆を結べてもいいはず。
それをしなかったのは、ピューゼンとの戦いで失うのが怖かったんだ・・・。
だから、コスモと絆を結ばせる事を良しとしたんだ。
例えドラゴンを失った国であろうと、黄金のドラゴンに弓矢なんて神に弓を引いているに等しい、引くことは絶対に出来ない。
・・・ヘンリー様を、ジジイ様として守っている結果だ。
「・・・サーシャさん。」
カリスタ様が、私の異変に気付く。
私は目から涙を流していた。
「私が思っている以上に、ドラゴンは心優しいのですね。」