震えている手と優しい手
勝手に指がピクリんちょしてます。
今の状態で令嬢たちに『あれを取って来て頂戴』とか言われたら、落としまくっているだろうな。
会場の笑いの種になるだろう。
令嬢方よ。こんな私を捕まえられなくって残念でしたね。
さて・・・この指どうしよう。
このままだと今日一日痙攣してるかもしれない。
服の着脱できないかもしれない。
「サーシャ。」
私を呼ぶ声に振り向くとそこにはヘンリー様がいた。
「ヘンリー様、会場に居なくていいのですか?」
私は驚きながらヘンリー様のもとへ行く。
「サーシャがいきなり会場を出たから心配で・・・何かあったのか?」
私は素直に手に負担を掛け過ぎて痙攣をおこしている事を伝える。
「まったく・・・馬鹿だなサーシャは。」
そういうと、私の腕を掴み歩き出す。
庭園の中央付近の温室近くに向かうと青いドラゴンが見える。
そして、この鳴き声・・・
”ギュギュギュギュギュギュ・・”
忘れもしないユピテルだ。
温室の近くに噴水がある。その噴水からは湯気が出ていた。
温泉の噴水だった。
「ユピテル。サーシャの手も浸かるがいいか?」
ヘンリー様の言葉にどうぞと訴えるように目を瞑る。
「手を浸かるといい。」
私はお言葉に甘えて噴水に手を入れる。
しびれが和らいでいくのが分かる。
ヘンリー様は噴水の縁に腰を掛ける。
「サーシャがピアノを弾けるとはな・・・驚いたよ。」
私は今のこの手の方が驚いている事を言うと、ヘンリー様は鼻で噴いた。
「サーシャは、どこかの貴族なのか?」
私は困った顔をする。
ヘンリー様のような領民を想い、行動のできるお方に『そうです』と、言うには自分が情けないと感じてしまう。
生まれ故郷を革命に向かわせる発端を担ってしまったのだから・・。
「サーシャ?」
心配そうに私を呼ぶヘンリー様。
顔で表情を表せなくてもヘンリー様の優しさは伝わってくる。
私は・・・生まれ故郷で、他にも出来たのではないかと・・・例え力がなくても・・微々たるモノでも。
革命が起きれば・・・人が死ぬかもしれないのに。
・・・相変わらず、自分に甘いな。
『かも』ではない。
人が死ぬのだ。
”ふわ”
「?!」
ヘンリー様の手が私の頭を撫でる。
「すまない嫌な事を思い出させたのか?」
私はヘンリー様を見つめる。
”ギュギュギュギュ・・・”
私は、すぐに顔を俯かせた。
「貴族というには情けないモノしか残してあげられなかった事を思い出して・・・自分に幻滅しているのですよ。本当に情けない貴族だったんのです。」
情けないから国を捨てなければならなくなったことを伝えた。
「でも、そのおかげで俺はサーシャに会う事ができた。サーシャの故郷には申し訳ないと思うけど・・感謝している。」
”ズキンッ”
と、胸に痛みを感じる。
ヘンリー様が感謝する事のモノではないのですよ。
「私は・・・そんな立派な人間ではありません・・ないんですよ。」
”ポタリ・・ポタリ・・”
私の目から涙が出てきた。
「サーシャ、何故泣くんだ?」
ヘンリー様は私の頬に手をやり自分の方へ向かせる。
そして私の顔を両手で包み指で私の涙をぬぐう。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
何度も私は謝る。
ヘンリー様はうん・・うん・・・と頷き私の涙を拭ってくれた。
こんな事をして頂ける人間ではないのに・・・。
”ギュギュギュギュギュギュ・・”
ユピテルのバックミュージックが聴こえる中で涙が止まるまでヘンリー様は拭ってくれた。
そして、涙が止まると・・・。
「さて、行こうか・・・。」
ヘンリー様は立ち上がる。
「どちらへ行かれるのですか?」
私も噴水から手を出して立ち上がる。
”ふわっ ドーンッ”
と、コスモが空から飛んできた。
ヘンリー様がコスモに乗り、私の手を引き一緒に乗せる。
そして私たちは城を出る。
そして・・・城下町の洋服屋の前に降りた。
「コスモ。昨日の折り合った場所で集合な。」
こうして、ヘンリー様と私は、昨日洋服を買ってくれた洋服屋に再び入る。
「すまない。急ぎパーティードレスに着替えさせてくれ。全身コーディネートしてくれるとありがたい。」
と、ヘンリー様は数人の店員に私を放り込んだ。
「喜んで!!」
女性店員が満面の笑みで襲い掛かって来た。
「いやーーー!!」
私は悲鳴をあげる。