パーティー会場にて
「ようこそ、おいでくださいました。」
エリック様、ヴァネッサ様、ヘンリー様は、ハミッシュ陛下とカリスタ様をお出迎えする。
「お誕生日おめでとうございます。ヴァネッサさん。」
と、カリスタ様が言い。『つまらない物ですが・・』というお土産持参時の流れ的な言葉をかけヴァネッサ様に籠を渡す。
籠の中には、ガラスの切子細工のお菓子の器が入っていて、その中にクッキーが入っていた。
「これは・・・もしかして、カリスタ様の手作りのクッキーですか?」
カリスタ様は恥ずかしそうに『はい。』と、答えた。
ヴァネッサ様は微笑を見せた。
「・・・懐かしいわ。」
と、カリスタ様がチューラの町の領民だった時の事を話し出した。
ヘンリー様だけでなく、ヴァネッサ様も、カリスタ様がクッキー祭りの選ばれたクッキーの事を覚えているとは・・・。
相当な絶品クッキーなのだろう。
ハミッシュ陛下とカリスタ様をパーティー会場へ案内する。
パーティー会場には50人ほどの招待客が来ていた。
その招待された客の中に、招待されてないがたまたま来たハミッシュ陛下とカリスタ様が入る。
今日の主役のヴァネッサ様をそっちのけになるのは必然である。
だが、しかしヴァネッサ様はそれでもニコニコしている。
ヴァネッサ様の誕生日に、国王と王妃が来ると言う名誉からであろう。
それにしても・・・女性が多い。
使用人たちが言っていた話は事実のようだな。
ヘンリー様の結婚相手を見つける場と、この会場はなっているという事。
家族連れで招待を受けているが、娘を連れている家族しか見えない。
息子連れの家族は来ていないのだ。
・・・あからさまだな。
下は12歳から上は33歳。
なんというか、問題ありな感じだよな。
年齢が上の女性は出戻りの方もいて、中には出産経験ありの子持ちもいるとの事。
『ルベライト公爵家の跡取りを産む事が出来ますを産んだ子で証明してます』ってアピールって事?
年齢が下に関しては『ロリコンだろうがいい』と、ヴァネッサ様が思っているという事?
どっちに転んでも・・・怖いよ。
普通で行こうよ~。
「あなたね。ヘンリー様の専属メイドって。」
私は5,6人の女性、年齢は10歳後半から20代後半、言わば結婚適齢期の令嬢たちに囲まれた。
嫌なオーラが漂っています。
こちらも、普通で行きましょうよ~。
『令嬢』の前に『悪役』って付いてしまうのでしょうか?
「あなたメイドのクセに生意気なのよ。」
どのようにでしょうか?
「そうよ。あなたはメイドでしかないのよ。それなのにヘンリー様の専属だなんて、おこがましいわヨ!」
ヘンリー様が私の事をおこがましいと思えば、専属の解除するのでは?
令嬢方よ。そこまでヘンリー様は決断力のない人と思っているのですか?
失礼な。
・・・それで?
他は何?
「まあまあ、あなた方、そのような話はここまでにしません事?」
令嬢のボスの登場ですか?
「どうです?このヘンリー様の専属メイドに音楽などを要求しては?」
クスクスと含み笑いがする。
私はご令嬢方に連れられ、会場の端にセットされた楽器の前に行く。
ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、ハープ・・・もう一台ピアノがあると思ったら、チェンバロだった。
「まだ、この会場に音楽が流れていなくて、寂しいと思っておりましたの。」
扇子を広げ口元を隠しクスクス笑うご令嬢方。
「ヘンリー様の専属メイド。音楽を奏でなさい。」
令嬢の一人に背中を押され楽器の前に立たされる。
クスクス笑う嫌な声。
この嫌な声を消すには・・・やはり音色か・・・・。
私は、手をグーパーと3回し、親指を鉤のように曲げ、親指と親指をひっかけ引っ張る。次は人差し指も同じように・・中指、薬指、小指と同様にした後、再びグーパーを3回。これが、ピアノを弾く前の私のルーティーン。
ピアノにセットされている椅子に座る。
深呼吸を1回。
まずは、この日らしい曲から弾かなければ・・・。
前奏を引き、口ずさむ。
「ハッピーバースデー トゥーユー♪ ハッピーバースデー トゥーユー♪ ハッピーバースデー ディア ヴァネッサさま~♪ ハッピーバースデー トゥーユー♪」
うん・・・何とか弾けそうだな。
会場から拍手が贈られる。
ヴァネッサ様が私の方を見る。
私は椅子から立ち上がる。
「お誕生日おめでとうございます。ヴァネッサ様の誕生の喜びを奏でさせていただきます。」
そのように言い、再び椅子に座り、グーパーと3回。
再びピアノを弾き始める。
周りの令嬢があっけにとられる。
そうだろうよ。
メイドでしかない私がピアノを弾いているのだから、それも超絶技巧の分類に入る曲を・・・。
指が攣りそうだよ~。
ドビュッシーの『喜びの島』
攣る ツル つる~♪
私の指頑張れ~ ファイト―!!
こうして私は、久々にピアノ弾くというのに、指の負担が超絶にかかる曲を弾き終え、ため息をつく。
再び拍手がわく。
「さすがはサーシャだな。ルベライト公爵に紹介して良かったよ。」
と、ハミッシュ陛下が拍手しながら言った。
そしてハミッシュ陛下はカリスタ様の手を取る。
「せっかくだから、ワルツを頼むよ。」
ハミッシュ陛下は、カリスタ様を連れ会場の中央へ行く。
これって、弾くしかないって分類ですよね・・・あはっ
指が~、指が~・・で悲鳴をあげているのにか・・・。
女性らしいふわっとした曲がいいよな。
私は手を振り、3回グーパーをして鍵盤に手を置く。
チャイコフスキーのくるみ割り人形『花のワルツ』を奏でる。
前奏を弾く、前奏始まってすぐに鍵盤から手が離れる箇所で手を振る。
そして『指が~』ながら優雅に弾く。
今の私・・白鳥な気分だよな。
優雅な姿とは裏腹に足はバタバタっていう感じ。
曲は優雅だが、指は悲鳴をあげまくってます。
うお~
これは、くるみ割り人形の曲であり白鳥の湖の曲ではな~い!!
ハミッシュ陛下とカリスタ様が、エリック様とヴァネッサ様も、他の方々がワルツを踊っているその端で、指が神経から踊りまくっていた。
弾き終えると私は、一礼してすぐに会場から退散する。
だって、これ以上弾けませんから・・・。