クッキーには・・・
「ヘンリー様はカップ決まりましたか?」
私は、すぐ隣にいるヘンリー様にコーヒーカップを選んだか聞く
「まだだな。」
白いシンプルなコーヒーカップが並べられている所をじっくり見ているヘンリー様。
その隣に私がいるという事は、私もシンプルなコーヒーカップを見つめているのだ。
「ヘンリー様もシンプル系が好きなのですか?」
「まずは、基本からだろう。」
うん、確かにそうなのよね。
ヘンリー様に強く同感をします。
そして、そこに少しのスパイスとなる遊び心のある物があれば飛びつきたくなるのよね。
あれ?
あのカップ・・・。
「マスターさん、あの17番と18番のカップって全く同じ様に見えるのですが・・・。」
カップの下に書かれた番号の17と18の番号の2つ
細目の円柱で横幅がない分縦の高さのある白いコーヒーカップ。
ちゃんと受け皿であるソーサ―も付いていた。
マスターさん、何故カップを近くで見せてくれないのですか?
「これは、淹れてからのお楽しみカップなんだ。」
つまり、近くでは見せませ~ん。・・・なのね。
私は、ヘンリー様の方を向くと、向くのを待っていたかのように見つめてくる。
「・・・それにするか?」
私は満面の笑みで『はい』と答える。
こうして、コーヒーカップが決まった。
ヘンリー様がカウンター席に座り、隣に座るように席を引いたので、私はそこへ向かう。
・・・?
私は、ヘンリー様横を通り過ぎ、壁のポスターを見る。
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目指せ クッキー祭りのクッキーに!!
あなたのクッキーが、公爵家一家のお口に!?
領都地区選考会
9月8日(日)10:00~
会場:ファイアーク広場
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「クッキー祭りには選考会があるのですか?」
私の発言にヘンリー様とマスターさんまで、一瞬時間が留まったかのように静止した。
「お嬢さんは、ルベライトの人間ではないね。」
私はコクっと頭を上下に振る。
「ルベライト領民の女性全員がクッキー祭りでクッキーを作りお祝いをするのですよ。」
そうなのですね。
そこまで大きなお祭りだったとは・・・。
ルベライト領の全女性のクッキーなんて食べられるわけがない。
選考会は必要だ。
私はヘンリー様の隣の席に座る。
すると、どうぞとコーヒーとクッキーが出された。
噂をすればなんとやらなクッキーだな。
「興味があるなら出たらどうだ?」
と、ヘンリー様が言い、コーヒーに口を付ける。
私は、出されたクッキーを一口食べる。
うん・・・やっぱりね。
「美味しい。私はここまで美味しいクッキーは作れませんよ。」
そう、このさり気なく出されたクッキーも、初めてヘンリー様にあったチューラの町の喫茶店『シンシャ』に出されたクッキーも美味しかった。
私の作るクッキーは、お子様が作る初めてのクッキーぐらいだよな。
「ヘンリー様、これまでで一番印象に残っているクッキーってありますか?」
ヘンリー様は、これまでの人生で一番印象に残る物か、クッキー祭り限定で印象に残っている物が聞いてきたので、ここは両方聞こうではないか。
「今までの人生で一番印象に残るクッキーは・・せんぶり茶クッキーだな。」
・・・・・・・は?
え?
何?
おかしいんじゃないの?
せんぶり茶って、罰ゲームの飲み物の名前でしょうが。
製作者は誰なんですか?
「リオンが学園に入る前に王都の図書館へ通っていたと言っただろう。」
製作者リオンかよ~!!
なんでも、モーリスさんの弟妹の健康が気になり、健康的な物を食べさせた方がいいと思ったらしく、紅茶クッキーの感覚で、せんぶり茶の葉を使ってクッキーを作ったとか・・・。
リオンって結構・・・恐ろしき女?
マスターさんも驚いているよ。
聖女と言われているリオンが・・・せんぶり茶クッキーを作ったという逸話を聞いたんだもんな~。
「クッキー祭りで印象に残っているのは・・・カリスタ様。当時はカリスタ・セラサイトという名だったな。カリスタ様の作ったクッキーが絶品だった事は覚えている。」
今度は、王妃かい?!
カリスタ様のクッキーは絶品という事で、まずは安心。
3年連続で代表に選ばれたようだ。
4年目連続を期待していたが、カリスタ様は修道女になるために聖ライト学院へ入学。寄宿舎学校の為にルベライト領のクッキー祭り参加できなく、それ以降クッキー祭りに参加する事はなかった。
「あの子が王妃になるとはな・・・。」
ヘンリー様が、カリスタ様の当時を思い出しながらコーヒーを一口。
私は、ヘンリー様を見つめながらコーヒーを飲む。
ホッと息をする。
「ヘンリー様!?」
私は、ヘンリー様の腕を掴み揺する。
せんぶり茶飲んだことないのですが・・・。
印象深いというか・・印象不快クッキーをあげたくせんぶり茶クッキーにしました。