陶器のスプーン
「これは・・・馬子にも衣装ですね。」
奥の部屋から服を着てくると、モーリスさんが来ていた。
「モーリスさん、もう来ていたのですね。ヘンリー様は?」
その言葉にモーリスさんは、ヘンリー様は別の部屋で着替えをしている事。こんなに早く荷物を届けられたのは、手っ取り早くエーギルに乗って、私の耳に付いているマシュアクセサリーのピアスを目印に来た事を言った。
ああ、そうだった。このピアス。私の所在がドラゴンに駄々洩れのアクセサリーだった。
その後、モーリスさんは、濡れたヘンリー様の服と私のメイド服それに、ヘンリー様が買ってくれた服の2着を持って店を出て行った。
そして、只今着ている1着なのだが・・・。
お腹の方にリボンが付いているウエスト切り替えの清楚なワンピース
色は白だが、裾から太ももの中央ぐらいまで花柄が描かれている。
店員に力が入り、髪まで手が入った。
髪を下ろしレースのヘアーバンド姿に変身させられた。
先ほど、モーリスさんが馬子にも衣装と言ったが・・・つまらない者でも外形を飾ると立派に見える。まさにその意味そのままの格好だ。
「こちらもどうぞ。」
と、レースの日傘も渡された。
「じゃあ、行こうか。」
ヘンリー様が手を差し伸べた。
「ヘンリー様、お会計は?」
その質問にしれっと払ったことを言う。
「それは、ヴァネッサ様の為の物でしょう。自分の物は自分で買います。いくらでしたか?」
「おいおい、男に恥をかかせるな。」
ヘンリー様は私の手を引き店を出る。
「サーシャにとって俺は甲斐性なしに見えるのか?」
いきなり何を言うのかヘンリー様。
「ヘンリー様が、どうして甲斐性なしに見えるのでしょうか?」
私は質問返しをした。
「それは、先ほどサーシャが母上のプレゼント分しか、俺の自由にできるお金が懐にないと思ったのだろう。」
「いいえ。」
私の言葉にヘンリー様の言葉が止まった。
「私のような者に、ヘンリー様がわざわざお金を払う事はないのです。それにしっかり給料を貰っているのです。プラスアルファ与える事などございません。」
そのように説明を入れた。
それでもダメだと答えた。
そうなると私の方が甲斐性なしに思われてしまう。
とても不満だ。
「そんなに不貞腐れるな。それより母上のプレゼントだ。」
ヘンリ―様に考えろを言われてしまった。
わかっているけど・・・。
と、思いながら再び城下町を歩く。
コーヒーの香りがした事で、少し休憩をする事になりコーヒーの香りのする喫茶店に入る。
店に入って目に映ったのが、カウンター席から一面に見えるいろんな種類のコーヒーカップ
もしや、これって・・・。
「いらっしゃいませ。どのコーヒーカップで飲みますか?」
マスターがおしぼりを持って来て聞く。
前世でずっと憧れて、いつか行こうとして行けなかった店。
気に入ったコーヒーカップを選んでコーヒーを飲むお店。
「何種類カップがあるのですか?」
私は質問すると51種類と答えてくれた。
何にしようかなと私は目を輝かせてカップを一つ一つ見る。
「ヘンリー様のいつも使用されているカップは花のワンポイントのカップですよね。ティースプーンが素敵だなと思っているのです。」
ヘンリー様が城で使っているお気に入りのティーカップは、黄色いコスモスのワンポイトの入ったカップ。
ティースプーンも取っ手の部分が陶器でワンポイントのコスモスが描かれている物だ。
「本当の事をいうと、取っ手だけでなく全部陶器だともっと素敵だなと思うのですが・・・安全面を考えますと非常識なんですよね。」
貴族ともなると、スプーンやフォーク、ナイフといったカトラリーは、全て銀製品だ。
その理由は毒殺を防ぐための物。
前世での銀と、ラーイ界の銀は多少の違いがある。
毒を感知する精度が、ラーイ界の方が前世以上に正確なのだ。
なので、ヘンリー様ともなればカトラリーは銀製品を使用するのは当然の事。全て陶器のティースプーンを使うのは非常識な事なのである。
飲食を提供している所でも、その様な物は使用しない。
安全な物を提供していますと伝えないとならない為だ。
全て陶器のティースプーンは、一般家庭専用の物である。
「ですが、全て陶器のティースプーンはお互いの当然の信頼の証のように私は思えるのです。」
ヘンリー様は私の話を真剣に聞いている。
「ですから、取っ手の部分が一部陶器を使用しているティースプーンは、その・・・心は信頼している、信頼したいという表れのように思えるのです。」
ヘンリー様は、少し間を置き口を開いた。
「・・・そうか。」
誤字の報告感謝してます。
確認していても・・・あってしまうのですよね。
あらあらと思いながら、吹き出し笑ってしまっています。
これからも遠慮せずに報告をしてくれると嬉しいです。