マシュアクセサリー
「事情はわかりました。条件を付けて返却しましょう。」
・・・は?
デリック先生、おかしな言葉が付属でついてますよ。
「私の持ち物なのに、何故条件付きで返されるのですか?」
デリック先生・・・遠慮せずに答えろ。
返されなくなると、私は浮浪者にならざるおえないのだから。
「今の状況では、あなたの言っていることが事実かは確認できません。事実だとしても、無断で持ち出した物であることは変わりません。いわば盗難品です。」
正論を言われてしまった。
私に贈られた物でも、あの人たちが盗難品といえば、盗難品だ。
あの人たちの性格からして、私は泥棒したことになるだろうな・・・。
例え、あの人たちが亡命した後に住居を用意してたとしても、プライドが許さないだろうな・・・。
やれやれ
「条件とは何でしょうか?」
不満だが、浮浪者にはなりたくなから、条件をのむしかない。
「この貴金属の目録を作らせてもらう事と・・。」
一つではないのね。
「あなたの所在のわかる目印をつけてもらうことです。」
そのように言うと、デリック先生は、目の鋭い受付嬢に何か持ってくるようにと指示をした。
目の鋭い受付嬢は、部屋を出て行った。
やっと、普通に息ができる気がする。
「先ほど、目録と言いましたが、鑑定された金額も目録に記入されるのですよね。」
デリック先生は、その予定であることを伝えてくれる。
「では、私用にもう一冊目録を作っていただけないでしょうか?」
私は、貴金属の物の価値がよくわかっていない。
かつて、無造作に木箱に入れられていた貴金属の中の、たった一個の貴金属で、庭付き一戸建ての家が購入できる金額を出されたことがあった。
あの時は驚いたよ。
なので、最初から金額を分かっていたら、必要時に必要な貴金属を質に出せばいいだけとなる。
お金を貰って、途方に暮れる心配をしなくてよくなるのだ。
是非欲しい。
事情を説明したらすんなりとOKしてくれた。
◇ ◇ ◇
デリック先生とカロンの相棒さんが、目録の準備をしている中、部屋に入ってくる目が鋭い受付嬢。
うんざりした顔がプラスされている。手には標本箱のような木箱を持っている。
「ギベオン総括長。所長がそろそろお開きにして欲しいと、おっしゃっていますが・・・。」
確かに外はもう暗いが、このままでは・・・野宿になる。
「宿代と食事代ぐらいの貴金属を質に出します。そして明日、また来ますから、その際、目録の製作をお願いします。」
目の鋭い受付嬢の顔が、若干明るくなった。
「そう言っておいて逃げることも考えられる。」
デリック先生の一言で、再びうんざり顔に戻った。
国の機関で働いているそれも受付が、こうも感情を隠さないとは、困ったものだね。
「なら、早く選んでもらってくださいよ。」
「すまない。あなたは帰りなさい。時間外で残ってもらう必要はない。」
そう、デリック先生が言うと、表情を一気に明るくして部屋を出て行った。
あんな顔もできるのね。
標本箱のようなものが、テーブルの上に置かれる。
中には、いろんな種類のシンプルなアクセサリーが入っていた。
ネックレス、指輪、ピアスに髪留め、これってなんだろう。
銀にプラチナかな・・・それに白、黒だけでなく、赤や青、緑などの真珠を使ったアクセサリーもある。
「マシュアクセサリーという。」
聞いたことありません。
「ここ最近できたものですか?」
「ああ、20年ほど前に」
ここ最近で20年か・・・私は、まだ生まれてません。
でも、そうなるよね。
ドラゴンと絆を結んだ人の平均寿命は300歳。長い人で500歳と言われているからね。
「どのような物なのですか?」
「ドラゴニアにいる限り、所在が分かるアクセサリー。だから、地肌に放さず付けていて欲しい。」
デリック先生は、標本箱のような箱の蓋を開ける。
「GPSのような物かしらね。」
私は、その様子を見ながら言う。
「ジー、ピー、エス?」
あつ、いけない。前世用語だった。
「そ、それよりも、聞きたいことがあります。も、もしですよ、落としてしまって見つからなかった場合は、どうすればよろしいのですか?
「最寄りの外貨交換所へ行けばいい。ドラゴンが探す。」
もう一つぐらいの質問で、ごまかせるかしら?
「あっ、でもですよ。探せたところで、付けたくないような感じになったら、変更はききますか?」
「何が言いたい?基本交換はしない。」
はい、GPSがなかったことになる手前ぐらいかな、最後のひと押しよ。
「トイレの排泄物の中に落としたとしてもですか?」
「落とすなよっ!」
はい、何もなかったことになった。
ふ~ぅ
疲れた。そもそもGPSを説明するのも、ネット辞書を見ないと詳しく説明できないからね。
この世界にネット環境なんてないから、説明は無理に決まっている。
ごまかせてよかったわ。
「それで、どのアクセサリーにするのだ。一つ選んでくれ。」
「一つだけですか?気分で替えること、できないのですか?」
当然だと返された。
さて、どうしよう。
髪留めは、落とす可能性大。
それこそ、排泄物に落とす、なんてことありそうだ
ネックレス、ブレスレットは何かの拍子に、引きちぎってしまう恐れがある。
指輪は、顔を洗った際に引っかき傷をつけた人が、いたから嫌だな。
そうなると・・・ピアスか。
「銀のピアスがいいです。」
「どちらにする?」
デリック先生、私は銀色のピアスでなく、銀、銀のピアスがいいのです。
「どちらが銀のピアスですか?」
「どちらでも同じだろう。その様なことでドラゴンを使うことはできない。」
左様ですか・・・致し方ない。
裏技を使うしかないか。
私は、自分の鞄を開ける。
”グイッ”
と、ヴァルナの頭が動く
・・・ふふふっ
私は、鞄から『ベーカリーうみまつ』の紙袋を取り出す。
「ヴァルナ、お口、あ~ん!!」
ヴァルナは、口を開ける
私は、その口を目指し、紙袋の中のチョコチップスコーンを取り出し投げる。
”パクッ、キュウ~”
ヴァルナは嬉しそうに鳴く。
すぐさま、私は銀色のピアスを左右に持ちあげる。
「銀のピアスはどっち?!」
”クイッ”
ヴァルナは首を私の右手の方に向ける。
「右手の方を頂きます!!」
「餌付けするなーーっ!!」
デリック先生は大声をあげて怒る。
「デリック先生もいかがですか、ベーカリーうみまつのチョコチップスコーンですよ。」
「俺まで餌付けするつもりかー!!」
私は、目をパチクリし頭を傾け、不思議そうにデリック先生を見る。
餌付けなんか、するつもりありませんよ。
『デリック先生とチョコチップスコーンはセット』
って言う、呪いのような常識が働いただけなんですから・・・。