逆鱗
”ギオオオオオ~~ンッ”
と、ジジイ様が大きな鳴き声をあげる。
その鳴き声に飛び起きるクレシダとコスモ。
”ギュオオオオオオ~~”
まだ、大きな鳴き声をあげている。
いきなり、クレシダが私の所に来て私の頬をなめる。
”ピカーーーッ”
と、ジジイ様の喉のあたりが赤く煌々と光りだした。
光が小さくなるとジジイ様の前に2㎝ほどの赤く光る玉が浮いている。
”スパーンッ”
と、赤く光る玉が銀髪の男性の額に放たれる。
『発砲される』と表現された方が正しいほどの速さだった。
銀髪の男の体に流れる血管が一瞬赤い光を帯びた。
「な、何が起きたのですか?」
口から炎を吐くわけでも他の力を放つわけれもない、この行動が何かを聞く。
「逆鱗だ。」
と、ヘンリー様が軽く説明してくれた。
・・・逆鱗
前世の用語では、ドラゴンの顎の下にある逆さに生えた鱗。
人が触れると怒りその人を殺すと言われている。
顎というか喉あたりを光らせていた。
だけど、銀髪の男がジジイ様の逆鱗に触れていない。
そもそも、ジジイ様自身にも触れていないのだが、どういうことだ?
「金色の瞳と紫色の瞳を持つドラゴンは、口がら吐く特殊な能力がすべて使えます。それはドラゴンを指導する者としての役割もあるということです。」
モーリスさんが語り始めた。
金色の瞳と紫色の瞳を持つドラゴンは全ての能力を持つ。
故にドラゴンを導く者としての責任も負わないとならない。
悪者からドラゴンを守る事が当然の行いであり、ドラゴンたちが騙されないように、悪者に印を付ける事が出来る。
それが『逆鱗』という能力。
「絆を結んでいないドラゴンで一番年配となるからな、赤いドラゴンとの絆は結べないと思っていた方がいいな。」
と、ヘンリー様は補足の説明を入れた。
・・・そんな事って、紫の入った瞳を持っている人ですよ。
「なんでこんな事に、こんな直接ドラゴンと絆を結べない女の為に、どうして僕がレッテルを背負わなければならないんだ~!!」
銀髪の男が私を蹴ろうとする。
”バチバチバチッ”
と、小さな稲妻が銀髪の男めがけて発射された。
銀髪の男はギリギリのところでよけた。
”キー”
クレシダが口から稲妻を出し、銀髪の男と私の間に割り込むように入ってきたのだ。。
「これは、驚いた。クレシダって稲妻なんだ・・・突風だと思い込んでた。」
ハワードさんが言った。
先ほどの稲妻はクレシダが発したモノだった。
優しいクレシダが・・・攻撃?
私はそれに驚くのだが。
「よってたかって僕を貶めやがって!!」
銀髪の男は、オレンジを切るために持ってきた果物ナイフを手に取る。
”ギオオオオオ~~ンッ”
と、黄金のドラゴンが大きな鳴き声をあげる。
・・・・コスモの鳴き声だ。
「ダメ~!!」
私は、コスモのもとへ駆けつけ、コスモを抱きしめる。
「何故・・・ここに黄金のドラゴンが・・・。」
銀髪の男はコスモに驚いている。
どうやら、ジジイ様が影になってこれまで見えていなかったようだ。
「ドラゴンの頂点として責任はある行動をとらないとならない事はわかっているわ。でも、変われるの、人は変わることが出来るの。あの人は、今、興奮しているだけ。後で反省することになるわ。これ以上、逆鱗を放たなくていいの。する必要はないわ!」
私は、必死に訴える。
コスモは、ドラゴンの頂点に立つドラゴン。
そのドラゴンが逆鱗を放つとなると、全ドラゴンと絆を結べなくなる。
そんなことになれば、瞳の色に関係なくドラゴンと絆を結ぼうと奮闘している人々に絶望を与えることになる。
そんなこと事になったら・・・。
”ギュオオオオオオ・・・”
コスモの喉あたりから金色の光があふれる。
「ダメ!ダメ!!・・お願い・・逆鱗を放つなら・・・氷作って!・・頬を冷やしたいから・・・お願い・・・お願いよ!!」
私は訴えるように伝える。
”グオオオオオオンッ”
金色の光の玉が現れる。
「黄金のドラゴンとして、たくさんのドラゴンに希望を与えるドラゴンとならないとダメだよ~!!やめて~っ!!」
”スパーーーンッ”
そして、私の訴えも虚しく金色の光の玉が放たれた。
私は、その場に座り込んだ。
クレシダが近づき頬を流れる涙をなめる。
”ギギギュ~”
と、ジジイ様の鳴き声で、モーリスさんが片付けだした。
モーリスさんが放心している銀髪の男から果物ナイフを取る。
ハワードさんも片付けに手伝う。
ジジイ様は、剥いたミカンをペロリと平らげ、まだ皮を剥いていないオレンジを洞窟に持って行く。
そして、ヘンリー様がコスモに、ハワードさんはオベロン、モーリスさんはエーギルに騎乗する。
「うわっ」
と、首根っこをジジイ様に咥えられ、ヘンリー様の所へ放り込まれた。
そして、ドラゴンが飛び立つ。
その中にジジイ様の姿もあった。