着々と準備は進む
公立図書館の件なのだが・・・やはり事件が勃発していた。
架空の人物が所長となっていて、公爵家からの給料を貰い、図書館を切り盛りしていた上層部の一族の懐に入っていた。
・・・やっぱりね。
その事後処理で、エリック様は今のところ忙しい毎日を過ごしている。
そして、ヘンリー様も、エリック様の捌く書類が回ってきているのだが・・・こちらは多少忙しくなった程度で日々過ごしていた。
本当にヘンリー様の書類捌きは神業です。
”コンコンコン”
と、ヘンリー様の部屋の扉のノック音がして人が入ってくる。
襟首にレッドパールのピンバッチが付いていることから、エリック様の専属の側近の男性だとわかった。
その男性は手紙を持ってきた。
『Nの文字の両サイドに大きなドラゴンの翼が付いている盾』の白に右端に青い封蝋の手紙。
ナイジェル・ラリマーさんの手紙だ。
エリック様の専属の側近の方は、エリック様が拝見をした後ヘンリー様に頼むべきと伝えたとの事。
・・・何が書かれているのだろう。
ヘンリー様がナイジェルさんの手紙を見る。
「次の温泉清掃日に合わせてクレシダと息子のハワード、それとハワードと絆を結んだドラゴンが来る事が書かれている。」
ナイジェルさんの次男ハワードさんドラゴンと絆を結ぶことが出来たんだ。
私がラリマー邸にいた時はまだ絆を結んでいなかったから。
「『焼きおにぎり風雑炊の準備を頼みます。』と、書いてあるが作れるか?」
ヘンリー様の質問に私は、自分が考案した料理という事を告げる。
「エリック様が忙しくなくても、こちらが対応しないとならない案件なようですね。」
モーリスさんが言う。
次の温泉清掃は、白いドラゴンの清掃日となっていた。
そして、幼いクレシダに今のうちから温泉に慣れ親しむために数日滞在をするようだ。
ナイジェル・ラリマーは、終焉の戦いの功労者。
それと、ヘンリー様の旧知の知り合い。
その息子なので、それなりのおもてなしが必要という事だった。
◇ ◇ ◇
温泉清掃日の前日25日は、翌日の準備がある。
ルベライト城内の間欠泉の温泉の下降にある広場に、翌日ドラゴンが使う掃除用具を置き、温泉の湯で人間の付けた汚れを洗い流すのだ。
人間が広間まで道具を持って行き、後はコスモたちドラゴンに頼み、温泉のお湯を流しいれ道具を洗うのだが・・・。
細かい作業が苦手なドラゴンなので、遠くから見ていると、道具と戯れると言うか、遊ばれているというか・・・。
道具にじゃれているように見える。
使用人たちの間では、見ていると癒されるという声が上がっていたりするドラゴンの作業である。
道具を洗い終えると、広場に温泉の湯を流し込んでいる仕切りを閉じ終了する。
その作業が終えるのが昼頃。
その頃には、ヘンリー様の書類捌きも終わる。
因みに毎月25、26日のお昼は、基本ルベライト城のお庭でお昼となっていた。
本日は、バルコニーにテーブル席を設け、焼きおにぎりが好きだったクレシダにちなんで、おにぎりと楊枝で刺して食べれるおかずとなっていた。
この日は、ヘンリー様、エリック様、ヴァネッサ様の親子水入らずでお昼を食べる。
私は昼食の準備を手つだっている中、大量のおにぎりが並べられている大皿トレーを見て一端立ち止まった。
筒状の白いおにぎりがきれいに並べられているのだが・・・。
「サーシャさん、どうなさいましたか?」
と、モーリスさんが私に声をかる。
まあ、私を含め使用人は昼食準備をしないとならないのに立ち止まるとは不謹慎よね。
・・・でもね。
「気になることを思い出したもので・・・。」
クレシダとハワードさんの事かと問われたが、それではないと答える。
「検討中の書類の中の2件・・・もしかしてと思ったことがありまして・・。」
私とモーリスさんの会話に、テーブル席に座ろうとしていたエリック様が『どんな案件?』と聞いてきた。
「港町ピンクスピネの不漁の件と、その隣町ピンクアメジの保養地の件です。直接現地に赴き確認を取らないとなりませんが・・・。」
私が思った通りの状態なら、解決に年数を有するがいい方向へ向かう事を伝える。
「どれぐらい年数がかかるか?」
と、ヘンリー様が聞いてきた。
その質問・・・はっきり言って不明なのよね。
「数年で徐々に成果がではじめまると思うのですが・・・完全に元通りと言うか・・元通り以上の結果が出るには数十年かかると思われます。」
そうなると町の人々との話し合いの場が必要になると思われる。
「そのぐらいね。」
と、エリック様が軽く答えた。
・・・?
町民の話合いの場を軽く見ている雰囲気だけど・・・大丈夫なのかな?
親子水入らずで昼食をとっている中で、私は不安に思いながら見つめていた。
「サーシャ、そろそろ着くぞ。」
ヘンリー様が考え中の私に声をかけてくれた。
・・・そろそろ?
”ピユーーンッ”
と、風が吹いてきた。
”キーーッ”
ドラゴンの鳴き声がする。
それと、同時にバルコニーにいる人たちが一斉に『あっ』っと、声をあげた。
そして、私は・・・クレシダになぎ倒された。
”キーッキキャッ”
嬉しそうに私の顔をなめまくるクレシダ
「うわっ・・きゃっ・・・落ち着い・・て・・クレシダ~」