金と紫と貢物
目の鋭い受付嬢のピリピリ刺さるようなオーラを気にしながら、話を続ける。
「デリック先生。私の瞳を見て、どのように思いますか?」
真剣な眼差しで、私はデリック先生を見る。
そういえば、ドラゴニアに来てから、こんな真剣な顔をしたのは初めてな気がすると感じながら、デリック先生の答えを待った。
「ドラゴンが、気に入る紫色の瞳をしている。」
そう、私の瞳の色は紫色をしている。
ドラゴンは金色を重視する。その次が紫色となっている。
その理由は、ドラゴンの神域のドラゴンの大樹にある。
ドラゴンの神域とは、ドラゴンの墓のこと。
ドラゴンの大樹でわかると思うが、ドラゴンは樹木葬である。
ドラゴンが亡くなれば皆、神域の大樹の下に運ばれ、大樹の栄養となる。
そのドラゴンの大樹なのだが、金色なのだ。
葉も、枝も、幹、花ですら。
全て金色だと言いたいのだが、唯一違う物がる。
それが実だ。
その色が紫色なのだ。
ドラゴンにとって、ドラゴンの大樹は必要不可欠なもののひとつ。
私の生まれた国は、ドラゴンの大樹が枯れてしまったため、ドラゴンがいなくなってしまったと、古文書に記されていた。
その古文書の中には、人間で金色の瞳の者、紫色の瞳の者は、、ドラゴンの大樹の加護があると記されていた。
そのような事で、ドラゴンは金色の瞳の者、紫色の瞳の者を好む傾向がある。
金色の瞳の者は『ドラゴンに愛される者』
紫色の瞳の者は『ドラゴンに好かれる者』
と、一般的に言われている。
「家にとって私は、道具でしかありません。」
目つきの鋭い受付嬢の、視線の痛さが若干弱まったことを感じた。
「どの家に私を嫁がせるか、貢物で決めようとしていた家です。」
「その貢物が、ここにある物というのですか?」
考え込むカロンの相棒さん。
「ほんの一部ですが・・・。」
補足の言葉を言うと、考え込みながらもため息をつかれてしまった。
本当に一部なのです。
幼いころから、それはもう貢物が贈られていた。
屋敷には、それ専用の4畳ほどの隠し倉庫があった程。
靴が一足入る大きさの木箱に、無造作に貴金属が入っていて、それが山積みに置かれていた。
亡命資金に、一目でわからない程度に頂いたものだ。
「貢物で、嫁ぎ先を決められて嫁いでも、選ばれなかった家からの攻撃を考えると恐ろしいです。」
「だから、逃げてきたということか・・・・。」
それも、亡命の理由の一つです。
でも、まあ、コクっと頷きましょう。
「追手に追われる心配はしていないのか?」
デリック先生の言葉に、私は苦笑いをする。
「傾きかけている国ですので、それほど心配してません。」
「それは、あなたのせいだったりしないか?」
デリック先生は鋭いところを付くね。
この貢物も、傾国に向かわせている理由の一つに数えられると思う。
だけど、私にはどうすることも出来なかった。
貢物が贈られていたのに、気づいたのは5歳の時。
前世の記憶を思い出してから・・・。
義母は、自分の部屋で新たに贈られてきた貢物を広げ、品定めをしているのを、たまたま部屋の前を通りかかり見聞きしてしまったのだ。
『女の価値は、貢物で決まるというのに、前妻は、娘への貢物を断っていたなんて、娘の価値に嫉妬する、プライドの高い女だったとわね。おほほほほっ』
と、使用人たちに、貢物を遠慮せずに頂くように指示を出していたっけな。
その時に『貢物を受け取ってはダメ』っと言って、耳を傾けると思う?
無理よ。
「きっかけが、私だとしても、どうすることも出来ないことって・・・・あり・・ますよね。」
話しながら、嫌ことを思い出してしまい、言葉を詰まらせてしまったわ。
「私にできることは、傾きかけた国に新たな時代を迎えるため、次期時代を担うであろう革命家に会い、亡命を協力してもらう代わりに、貢物の一部と、貢物の隠し場所を教えることですかね。」
私の言葉に、一瞬時が止まったように、辺りが静かになった。
「あなたの家族はどこにいる。家族も亡命してきているのだろう。」
デリック先生の質問に答えるか・・・・。
「私が亡命したことで、家族も亡命せざるをえないでしょうね。」
「あなたの家族なのに、所在が分からないような感じに、とらえられるのですが、どうしてですか?」
カロンの相棒さんも話に参戦してきた。
「実の両親は、すでに亡くなっています。姉と弟がいますが、半分しか血のつながりはありません。夫人に至っては全く繋がりがありません。」
私は、前世だけでなく、今世でも家族に恵まれていないのよね。
「ですので、ドラゴニア王国には、私一人で来ました。どうぞ、よろしくお願いします。」
私は満面の笑みを見せた。