お局メイドとその仲間たち
”コンコンコン”
と、父上の執務室のドアをノックする音の後、すぐに『失礼します』の言葉が聞こえ、6人のメイドが入ってくる。
俺は執務室の資料などが置かれたテーブルの備え付けのソファーに座っていた。
「よく来たね。」
父は、ニコニコ微笑みながら『君たちに聞きたい事があるんだよね~』と言い、執務室にメイドたちを招き入れる。
メイド6人が横に一列に並ぶと父上は本題の話をしだした。
「そんでね。やはり・・これからの事を考えるとだよ。ヘンリーには専属のメイドを付けた方がいいと思うのだよ~。」
これまで何度も俺の専属メイドの話は出ている。
そのたびに俺は潰してきたので、今回も潰しにかかるとメイドは思っている。
だから、メイドは誰一人として顔の表情を全く変えてはないな。
右から左へ話が流れていくそんな感じにとらえているのだろう。
「サーシャ・カーネリアンが、2通のメイドの推薦状を持ってきたんだよね~。どう思う?」
紹介状を1通持ってくるだけでも大変だというのに、2通持ってくるとはとはな。
メイドたちも動揺しだしメイドたちがお互いの顔を見ている。
「さすがに2通もってことでさ~、サーシャをヘンリーの専属にすることを納得しようと・・本人も思っているところなんだよね~。」
父上は、俺の方を見る。
メイドたちも俺の顔色を伺う。
俺に顔芸が出来ない事はメイドも知っているのに、どんな表情をすればいいんだよ。
「ほら、ここ眉毛が微妙に違うだろう。わかる者にはわかるんだよね~。」
父上よ。俺は困惑の表情をしているのですが・・・納得しようとしている顔では断じてない。
・・・いいように利用されているな俺。
「あのっ!」
お局メイドの取り巻きの一人が意を決したかのように言葉を発した。
「ん・・どうしたのかな?」
父上が声の発したメイドの方を見る。
「サーシャさんなのですが・・・間欠泉の、ドラゴンの温泉を・・使用してました!」
そのメイドの発言に別のメイドも『私も見ました』という者が出てきた。
間欠泉から出るドラゴンの温泉は、ドラゴン専用の温泉。
青い色の温泉で、ドラゴンの皮膚に良いとされている。
ただ、人間がその温泉に触れると青い色が透明になってしまうため、人間がその温泉を使用することを禁止されている。
その温泉を使用したとなれば一大事だ。
135年前になるのか?
そんなに経ったのか・・・。
当時の俺は、ドラゴンの温泉がどのような物なのか興味を持ちドラゴンの温泉に手を突っ込んでしまったことがあった。
青い色が透明になるのを楽しんでいたところを父上に見つかり・・・怒られた。
143年の人生で、父上に一番に怒られた出来事だ。
あの出来事の後リオンが、ドラゴンにドラゴンの温泉の清掃をローテーションでやって欲しいとドラゴンたちにお願いをして、月に一度、風呂のゴロに合わせて26日がドラゴンの温泉の清掃日となった。
体の色のローテーションでドラゴンが数十頭来ることになっている。
因みに黄金のドラゴンであるコスモは、ほぼ毎回参加。
コスモ自身は、いろんなドラゴンに会えて喜んでいるので助かっている。
それほど、ドラゴンの温泉は人間が近づいてはいけない場所だ。
それを使用したとなるとメイドをクビとなることは覚悟した方がいいのだが・・・。
「その証拠はあるのかな?」
父上の言葉に、メイドたちが昨夜サーシャ殿が下水の排水溝の掃除中に躓き、使用人専用の出入り口付近で排水溝の泥水を被ってしまった事を伝え、その後、ドラゴンの温泉の方へ向かったことを見たと言った。
「それって、おかしいと思わないか?」
父上も『そうだよね』と、賛同する。
「使用人の先輩として、ドラゴンの温泉を使用しようとしている者を注意しないとならない立場ではないのか?それを怠るとはいかがなものか?」
静かになった。
だが、お局メイドが口を開く。
「ドラゴンの温泉の方へ向かっているとは思っていましたが、ドラゴンの温泉を使用するとは思いませんでしたわ。」
その一言で『私も』『私も』と、全員が言う。
「つまり~、サーシャがドラゴンの温泉に向かったことは認めるんだね。」
父上の言葉に一同が『はい』と賛同する。
「ふ~ん、そうなんだ・・・。」
父上がメイドたちの言葉を受け止める。