夏の思い出といえば・・・
”ざわざわざわ”
お昼の時間帯ともなれば、学園の食堂ともなれば、人の会話などで騒がしくなる。
昨日まで夏休みだったので、騒がしさが戻ったと、言った方がいいのだろうか。
ただ、一か月ちょっと前の夏休み前より、会話のボリュームが大きいと思うのは私だけだろうか・・・。
夏休みの出来事を話したい気持ちが、このボリュームにしたのだろうか。
まあ、私は静かに食事をとっていますがね。
だって、夏休みの出来事は、漏洩防止にすべき内容が多い気がする。
姉さまの事は、お腹の子の父の事がありますし・・・。
ナーガ王国へ行った事も、コスモが命の危機にさらされた事がありましたので、あけっぴろげにして、ナーガとの友好に問題を挙げられるのは控えるべきだから無理。
ヘンリー様のことは・・・いうまでもなく厳禁だ。
あえて言うなら、セシル様の公爵の就任式?
ああ、それもダメか。
ヘンリー様とずっと手を握り、部屋に連行されて・・・はい、お終い。
そうよ、マリーの出産よ!
これは祝辞で、大々的に広げるべき内容よ。
私が名付け親になったんだから・・・リホウの名前は、どこから?
はい、答えられません。
秘密事項でございます。
いや、天からの声。天の思し召しって事で・・・って、私が残念な人間に見られるだけだわ。
ルベライト公爵家の威信に関わるし、何よりリホウ本人が可哀そうだわ。
やはり、これも個人情報保護が適応されるべき事項だわ。
つまり私は、この夏休みは、何をしていた人なんだ・・・に、なってしまったわ。
”くねっ”
と、私は食事を採りながら、小刻みながら腰をひねる。
「サーシャ。どうしたんだ?腰でも売って痛めたのか?」
ライ様。それもまた、個人情報保護の対象です。
と、言うか・・・私の口からお伝えするだけの能力がありません。
「すまない。」
ライ様がいきなり謝って来た。
それも顔を赤らめてだよ・・・うん、気付かれた。昨夜のヘンリー様との事を・・・恥ずかしいのですが・・・。
謝られる方がメチャクチャ恥ずかしいのですが。
だって、どうすることも出来ないんだからさ~・・・。
「長々が無くなった分、濃厚になったのですよね。」
おいっ、火照った顔にカイロを投げつける事を言うなよラスキンさん。
「仲直り出来て良かったです。一時はどうなるかと心配しましたから・・・。」
ニヤニヤ顔で心配されても、説得力がありません。
「これは、サーシャ様に借りを作れましたね。」
「ナーガ王国へ連れて行って下さらなかったのに、借りを作れたと言われては、ラスキンさんと友好関係をこれからも築いていけるか心配ですわ。」
私はワザと感ありありと出しながら言う。
ラスキンさんの顔がみるみる青くなっていくのが見てとれた。
「ラスキンさんの他に良好な関係を築けそうな方はいませんでしょうか?」
追い打ちをかける言葉を投げかけた。
「私・・・まだ、死ねません。」
涙ながら訴えて来るラスキンさん。
「なら、今回の件で貸し借りナシで、ゼロにしませんか?」
私はニッコリ笑顔で言ってみる。
まあ、良好な関係は築けていますからね。どうこう言っても・・・。
「サーシャ様に、弱みを握られた感がありますが、仕方がありませんね。」
私の意見に納得してくれたようだ。
するしかないのかもしれない事は・・・この際どうでもいいわ。
「今週の木曜日は、久々にクッキーを作るんだろう。」
もちろんですともライ様。
「一緒に作ってくださるのですよね。ライ様。そしてラスキンさんも。」
私は、二人を見ると、二人して顔を見合わせてから頷き『もちろん』と、答えてくれた。