亡者の言葉
入院して2日が過ぎた。
点滴での治療・・・手術とまではいっていない。
・・・点滴で治まってくれるのか?
1日目は、寮の友人に連絡を入れ鍵を渡し、入院に必要な物を持って来てくれた。
備え付けのクロ―ゼットで隠していた段ボールで作った洋服ダンスに驚いていたわ。
そこまで実家が貧乏なのかと・・・。
違うんだけどな~。
実家は、十分生活はできている。
特注の家具に高級輸入家具。ブランド物のバックに洋服と、私以外の家族はそれらに囲まれている。
私にお金をとことんかけない事が、兄さんと祖母さんが亡くなったことで生じた負の感情に、顔を立てるという事になっているのだろう。
単に、実家の中で貧富の差が激しかっただけだ。
「サヤちゃん。」
と、看護師に呼ばれ、ついてきて欲しいと言われた。
検査かな?
私は点滴棒をお供のように連れて、看護師の後をついていく。
そして、病棟の前のロビーに行く。
「沙弥那。」
「父さん!!」
そこには、父さんがいた。
私は左手は口、右手は首に手をやり咳をした。
まだまだ、喉の調子は良くなっていないことを正に確認させられた。
まだ、喉が苦しいほど痛い。
病院の外には庭がある。
朝という時間帯と、冬に入っていると感じる気温から人だかりはなかった。
ロビーでは込み入った話が出来ないのだろう。
病院内のカフェに行くと言いながら、こんな所へ連れてこられたのだ・・・。
「迷惑だとわかっていながら、よりにもよって入院で親を頼るとはな・・・世話になった家にそこまで嫌がらせをしたいのか?」
やはり、憤りをぶつけるために来たのか・・・。
「学校の関係者に頼むつもりでしたが、病院側が親との連絡を要求したのです。」
私は、ことの状況を説明した。
「大きい病院へ紹介状を出された時点で、入院すると推測できたはず。最初から別の者を用意できたはずだろう。」
私は、入院するとは思わなかったことを告げる。
「入院の予想が出来ない自分の出来の悪さを棚に上げ、正当化するな。」
・・・もう、話し合っても虚しくなるだけだ。
過去に戻ることなんてできない。
できるなら、私が過去入院した時点に戻してよ。
母さんの付き添いなどいらないって言ってあげるから。
兄さんのそばに居てくれって言ってやるわよ。
それが、もうできないのよ。
親の権力は何をしても、正しいの?
親の権力固持のために、子が犠牲になるしかないの?
それが、正しいの?
・・・私のこの考えも・・親の権力固持の志向の前には・・・・。
”・・・意味がない。”
分かれよ・・・わかろうよ、私。
もう、この会話に意味はない。
権力固持の優越感に浸るための儀式に付きあっても親が狂喜するだけだ。
『親の権力固持』と『正しい行い』が、イコールと勝手に理解をしている親なのだから。
もう・・・私だけ知っていればいい。
『親』というだけで『正しい』なんてことは絶対にない。
もう、これ以上・・・『疲れるおもい』をする必要はない。
「入院費等で再び連絡が来ては困るから、預り金を入れておいた。だから絶対に連絡するな。わかったな。」
『はい』と、私が答えるだけ・・・。
そして、父さんは帰る事を告げる。
「父さん。」
私は、呼び止める。
これが、最後になるなら・・・最後ぐらい伝えないと。
・・・このような状況なのだから。
父さんは嫌々しく振り向く。
私はお辞儀をする。
「どうか、道中気を付けてお帰りください。・・・さようなら。」
「お前に殺されてたまるか!!」
父さんは、怒鳴り散らし去っていった。
ああ、これが最後なんだな。
アスファルトに水滴の跡がひとつ、ふたつと雨のように付く。
頭をあげる事が出来なかった。
後、もう少し前世編にお付き合いください。