行く、行かない、行かせない
「サーシャ!!」
ああ、この声は・・・振り返らなくてもわかる。
振り向いたところで、顔の表情に変化はない。
お色気たっぶりの顔を見せ、怒っている事を肌で感じさせているだけ。
現に、磔にされている様に動けないでいる。
「サーシャをイリスに行かせるわけにはいかない!」
ヘンリー様は、置手紙を見たようだ。
私が、ナーガ王国へ行く目的は、ナーガ経由でイリス帝国に入国するためだ。
ヘンリー様は次期公爵としての才能がしっかり備わっているのに、私と一緒にいる事で、ヘンリー様は、ルベライト領の運営を疎かにしてしまう。
イリス帝国政府が堕落していた為に、革命へと導き、人々を死に追いやるしかできなかった私が、絶対にやらかしてはいけない出来事なのに、正式に妻になる前に、堕落した生活をしてしまったのは愚妻になると言える。
ルベライト公爵家の者として、ルベライト領を治めるからこそ、堕落した生活を送れば、イリス帝国と同じ道を歩むことになる。
それをしっかり踏まえ、イリスの地で革命の最後まで、現実に触れておくべきだと思ったからだ。
直接触れていないから、ヘンリー様の過剰な熱情に流されてしまうし、させてしまっている。
私はもっと学ぶべきなのだ。
「『行かせない』と、言われましても、『はい、わかりました』と、言えない事はわかりますよね。」
私は冷たい感じの答える。
「分かりたくない・・・と、なるのもわかっているのだろう。だから、置手紙をして、俺の前から消えようとしたのではないか?」
その通りです。
直接言えば、止めに入る事はわかっていたから、置手紙をするしかない。
今後の事を考えると、イリス帝国に行かないとならないのだから、こうするしかない。
「解っているなら、行かせてください!」
「無理だ!!」
ヘンリー様が近づいているのがわかる。
このままではダメだ。
どうすればいい、ヘンリー様に触れられれば、もう捕まり、流されるしかない。
そうなれば・・・ルベライトに未来はない。
”キーキューキュ キュキュキュキュキャー”
クレシダが大声で泣いた。
”ぶわぁ”
私を庇うように、ヘンリー様と私の間にマブ、それにシナバー商会の方々のドラゴンが割って入ってくる。
何が起きたんだ?
「ヘンリー殿。先ほどクレシダが言っていた内容を聞きそびれてしまいましたか?」
ナイジェルさんが、険しい口調でヘンリー様に問う。
「『わからずや』と、言っていたが・・・。」
”ギューギューギャギャゥ”
マブが鳴き声をあげると、ヘンリー様に向けていた顔を逸らした。
「サーシャを危険にさらさないように行動をしている俺が、何故非難を受けるのだ?」
えっと、ドラゴンの言っている言葉がわからない私には理解が出来ないのだが・・・。
どのような会話が繰り広げられているのでしょうか?
私は目をぱちくりした。
その斜め前でラスキンさんが口を開けて呆けている。
どうやら、この場にいる中で、会話についていけてないのはラスキンさんと私だけのようだ。
・・・誰か~、通訳してくださいな。
◇ ◇ ◇
「万事うまくいた。後は待つだけだ。」
俺は、部下たちに出発の準備をするように伝える。
「今度こそ、上手くいくんだよな。」
アランの質問に『もちろんだ』と、答える。
「さっきの子でも、良かったんじゃないのか?」
「ふざけるな!」
完璧でなければ、意味がない。
「サーシャでなければ、ヘリオドール家が付いてこないだろう!」
「はい、はい。」
と、アランがため息まじりに返事をした。