アマルテア
「ラスキンさん。聞いてもいいかしら?」
私は、ラスキンさんに対して、前々から気になっている事があったので、聞いてみようと声をかけた。
すると、ラスキンさんは、私のこれからする質問を答える気満々で、目を輝かしていた。
「ラスキンさんて、その・・・ドラゴンの戸籍を拝見出来るのよね。」
王家、公爵家以外でドラゴンの戸籍を閲覧できる人だと、私は予想しているのだが・・・。
確信が持てなかったので、恐る恐る聞いていた。
「流石ですね。その通りですよ。他の方々は誰と見てますか?」
モーリスは、ヘンリー様から聞いているから決定で、後は3人。
「モーリス・マディラ、デリック・ギベオン、ナイジェル・ラリマー、チェスター・メシャムではないかしら?」
勘を言うと、セラ様がセシル様と結婚するまでは、ドラゴンの戸籍の閲覧許可者は、ラスキンさんではなくセラ様だったのではと、いう事も付け加えてみた。
「ウィリアム様から、ヘリオドールの申し子と言われるだけはありますね。サーシャ様の言われた全て正解です。」
ラスキンさんは感心するそぶりで、私を見ている。
「そのようなサーシャ様ですから、新たなレシピを私めに教えませんか?」
・・・そう来たか。
「それに関しては、ラスキンさんの努力次第ではないかしら?」
こう言ってみたモノの、私の脳内にあるレシピは底が見えているのよね。
まあ、何かの拍子で思い出すことがあるとは思うけど・・・。
出し惜しみした方がいいでしょ。
「努力いたします。」
勝手にどうぞ。
頑張ってくださいも、付けくわえてあげましょうか?
私の心の返答ですけどね。
「そのような事より、アマルテアについて知りたいことがあるのよ。」
一瞬にして、困った顔になるラスキンさん。
ドラゴンの戸籍の閲覧許可者には、決まりごとがあるようね。
なので、『答えられる範囲でしたら』って、言葉が返って来たわ。
「後、どれぐらいでアマルテアは500歳になるのかしら?」
年齢を直に聞くよりも、こう質問すれば答えやすいかしら?
そう、未だにアマルテアは、ライ様に年齢を告げていない。
雌のドラゴンは、年齢を教えるのを躊躇する傾向にある。
だが、ドラゴンの大樹の攻防戦の時。絆を結んで間もない中でありながら、ライ様に嫌がることなく付いて来てくれた。
ドラゴンの頂点であるコスモだけでなく、国の頂点であるハミッシュ陛下もいたのだ。
従わなければ、お咎めがあるかもしれない状況にも関わらず、ライ様に付いて来てくれた。
本来なら、そっぽ向いて背に乗せない事も出来たのにも関わらず。
絆だけでなく、相性もいいと言っていい。
それでも、年齢が聞きだせていない。
つまりアマルテアが、ライ様を思ってワザと言わないでいると考えるべきで、そうなると、やはり、鑑定技術の知識が確定されている500歳が挙げられるというわけだ。
「アマルテアは、怪我が治った時には、ライ様と絆を結びたかったのではないかしら?だけど一旦別れて、国王主催の舞踏会に絆を結んだ。何か理由があるとしか思えないわ。それが、年齢と見てもおかしくないのではない?」
私の話を感心するように見ているラスキンさん。
それで、どうなのかしら?
私は、首をかしげて返事を待つ。
「499歳です。」
やはりな。
「クローライト家の者と絆を結ぶのです。無理やり結んだと思われたり、判断ミスと思われない為に、500歳まで待つつもりだったのでしょう。」
だけど、あの頃のライ様だと・・・。
「ライ様は、ドラゴンと積極的に寄り添うようになっていたから、別のドラゴンと絆を結んでしまうかもしれなかったわね。」
ラスキンさんは、大きく頷いてから口を開く。
「ですから、先に絆を結んでおいて、500歳まで年齢を隠すつもりでしょうね。」
長年、クローライト家の者がドラゴンと絆を結べなかった事を意識しているし、ライ様がクローライト家の者と知っておきながら受け止めて、ライ様と絆を結んだのだ。
「アマルテアは、思慮深い素敵なドラゴンね。」
私の問いかけに、ラスキンさんは『はい。』と、明るく返事をしてくれた。