お出かけをする
遅くなりまして、申し訳ありません。
”むくっ”
と、目が覚めたので、自分の上体を起こす。
膝の上に、ヘンリー様の腕がストンッと勢いよく落ちてきた。
「・・・・。」
この腕、というか手・・・先ほどまで私の胸にあった手だ。
つまり、胸がないから、こんなにも勢いよく落ちてきた・・・そういう事なのか?
胸を揉まれても、大きくならないので、引っかかる箇所がない・・・そういう事なのか?
そして、ヘンリー様は起きないし・・・早朝だから起きないのはわかっているが、何だろう・・・朝から切ないと感じてしまっている。
私は、ため息をつき、ベットから起きる。
フラフラと、よろけながら浴室へ向かいシャワーを浴びる。ここを出る準備をするためだ。
準備を済ませ、ヘンリー様の眠っている寝室へと向かう。
ヘンリー様はぐっすりと眠っていた。
初めの頃は、ヘンリー様の寝顔ですら色気で見る事が出来なかったのに、今は普通に見る事が出来き、寝顔にもキスすることも出来る。
たった数年でこんなにも変わるのだなとしみじみと感じながら、鞄の奥にしまっておいた手紙をヘンリー様の枕元に置く。
「勝手ですが、今後の為に行ってきますね。」
私は、再びヘンリー様の口にキスをしてから部屋を出て行く。
ドラゴンの待機している棟へ行くと、もう出る準備をしている者たちがいた。
「おはようございますラスキンさん。」
ドラゴンに積み荷を乗せる指示を出しているラスキンさんに声をかける。
「サーシャ様!!おはようございます。」
と、満面の笑みで私に挨拶を返しながらこちらに来てくれる。
「昨夜は本当にありがとうございました。おかげでクビにならず・・・いいえ、この場合は、再度雇ってもらいましたになりますかね!!」
私は、クスリッと笑い。『よかったです。』と、伝えた。
「姉を怒らせると、半殺しが2回の刑に処されますから・・・。」
「半殺しが2回・・・の刑?」
ラスキンさんの言葉に呆気にとられ、つい質問じみた返事をしてしまった。
「『死なないが、死んで欲しい。なら、半分の死を時間をおいて2回やれば、生きてはいるが死んだことにならないか?だから、遠慮せずに2回受けろ!』って、いう考えが姉にはあるのです。」
あのセラ様が・・・。
「でも、一歩間違えば・・・・。」
「あはっ、あはははは・・・・。」
私の言葉を遮るように、ラスキンさんが笑い出す。
うん、これ以上は、聞いてはいけない領域のようだ。
「うふふふふ。」
と、私もラスキンさんに続けるように笑い出し、それ以上は聞かない事を笑いで示した。
「積み荷を、積み終えました。」
ラスキンさんの部下の人が声をかけてくる。
「どちらに行かれるのですか?」
私の問いにラスキンさんは、辺りのドラゴンを見まわす。
「いろいろな所ですね。」
やはりな、各国から商品を取り寄せての、今回の就任式だったんだな。
「ナーガ王国行きのドラゴンもいますか?」
「もちろんですよ。これから、私がウィリアム様の所に、就任式の報告をしに行きます。」
ラスキンさん本人が、部下のドラゴンに、一緒に乗って行くようだ。
「私も、ウィリアム伯父様に伝えたいことがありますので、乗せてください。」
私の言葉に、困惑した顔を見せるラスキンさん。
まあ、そうだろうね・・・。
「コスモがまだ、本調子でないから、ヘンリー様にお願いすることができなくて・・・。でも、このままではダメだからナーガ行きのドラゴンを探していたのです。出来るだけ早く帰られるモノをと思ったのですが・・・。」
私も負けじと、困った感じを匂わすように言う。
「私も学園の新学期に、間に合うように日程をくんでいますから・・・確かにサーシャ様の探しているドラゴン、そのモノです。」
ラスキンさんは、すこし考えこみ、そして、私を見て口を開く。
「ヘンリー様は、サーシャ様がウィリアム様のところへ行くのをご存じなのですよね。」
ラスキンさんは私に質問をしてきた。
やはり、ヘンリー様がいない事を気にしているようだ。
「置手紙をしてきていますし、ドラゴンはすぐに帰るのでしょう。なら、問題はないはず。」
ラスキンさんは、私の言っている事に頷いてくれた。
「サーシャ様のいう通りですね。わかりました。ナーガ王国へ行きましょう。」
こうして、私は、ラスキンさんの商会の出す、赤いドラゴンに乗る事が出来た。