病気と同意書と連絡先と・・・
「両親と連絡を取りたいんだけど。」
私の前に座っている白衣を着ている男性が発する。
「学校・・寮の・・管理人さんでは、ダメ、ですか?」
私は痛い喉をおさえながら言う。
「それは無理だよ。責任を負えないからね。」
机の上には数種類の書類。
『手術同意書』『麻酔同意書』『手術にともなう肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症予防の説明、同意書』
19歳の私は、これら書類にサインは出来ない。
喉が痛く食べ物も喉を通らず、診療所へ行ったら、総合病院の紹介状を渡され、受診をすると緊急入院と目の前の白衣を着ている医師に伝えられた。
これら手術の書類は、未成年の私は記入できない。
大学生となることで実家を出た。
当然だが、実家から通えないところの大学を選んだ。
実家を出ることに、やっと解放されたような顔をする両親。
だが、再び・・それも入院で・・・。
よりによって入院で、親と連絡を取らないとならないの?
「私が・・親の名を・・記入すれ」
すぐに『出来ない』と、言われた。
「喉の腫れが引かずに、大きくなったら窒息するんだよ。」
「ですから・・私に・・記入さ」
病院が違法をするのを認める事は出来ないと言われてしまった。
・・・無理だよ。
私の入院で、兄さんと祖母さんを亡くした過去を持つ家に、私の入院で同意書のサインが欲しいって言っても、狂うだけだよ。
『死ねばいい』って、言われるだけだよ。
そんなの直に聞きたくないよ。
やっと、解放されたんだよ。
『家を出てくれるんだから、学費ぐらいは払ってやる』って言ったのにも関わらず、入学金と3か月分しか学費払わず。私は、給料のいい特殊清掃のバイトで、学費と生活費を賄っているのに・・・。
そうすることで、家から解放されるんだって、これまで頑張ってこれたのに・・・どうしてよ。
年配の看護師が来る。
「先生。学校に連絡入れて、親の連絡先を聞けばいいだけですので」
「ダメ!!」
私は、かすれ声で叫んだ。
と、同時に喉をに手をやりうずくまる。
痛い。痛すぎる。
唾も呑み込めないのに・・・。
「それしかないでしょ。」
と、年配の看護師は言い。唾を出すためのトレーを渡してくれた。
受け取り拒否したいが、受け取りつばを吐く。
「・・・父親の・・連絡先で・・いいですか?」
私は、携帯電話を取り出し、メモに連絡先を記載する。
「それ以外は・・教えられません。」
先生は、メモを受け取り連絡を入れる。
「たまにいるのよね。あなたのような子が、親もとを離れたって、まだ親を頼らないといけない年齢だって言うのに、粋がって親に同意書の記載を拒む子が。周りを困らせている事わかっているの?」
粋がるつもりもない。
周りを困らせたいとは、これっぽっちも思わない。
一番いい方法を探した結果が、このような行動しかないのに・・・。
一般論を偉そうに言わないで欲しい。
「それは、お嬢様がかわいそうじゃないですか?」
ほら、父さんと連絡繋がった先生が困っているじゃない。
電話ごしの父さんの話している内容はわからないが、内容からして相当父さんは怒っているようだ。
「ちゃんと聞いてください。お嬢様の命にかかわる事なのですよ。」
先生が説得しているが・・・どうなんだろう。
母さんなら通話を切る。
その後、父さんからの嫌がらせ電話が来る。
もしくは手紙か?・・・来たとしたら呪いの手紙だよな。
電話で先生が手術の説明をしだした。
いやいやながら聞いているのだろう。
「あなた、親に何をしたの?」
と、年配看護師の言葉。
・・・あくまで私がいけないのね。
この年配看護師のいう事が正論とするなら、私が病気をすることがいけないと言っていることになるのね。
もし、それが正しければ、どうすることが正しいのですか?
・・・教えてください。
看護師は、病気することがいけないと患者に説得することが仕事なのですか?
・・・最低な職業ですね。
「お父さんと連絡がついて、口頭だけど同意書をもらった。点滴で腫れがひかず。腫れが大きくなって窒息のリスクがこれ以上高くなったら手術するからね。」
先生はそのように説明してくれたけど、説明する声に疲れが出ていた。
こうして私は、入院することになった。
よりによってあの年配看護師が、先ほどの先生とのやり取り等の内容を病棟の看護師に伝えるために一緒に病棟に来た。
後ほど、ナースステーションの病棟看護師たちの会話で、父さんが私の心配よりも、家に電話を入れたかの方を気にしている事から、父さんしか血が繋がっていないと思われたようだ。
家の母さんとも、弟とも血は繋がっているんだけどな・・・。
入院、手術となると、やたらと書類があるんですよね。
必要な書類はこれだけだったかしら?
まだ必要書類あったりして・・・。
やはり、健康が一番ですね。