手を握られて・・・
就任式に呼ばれる10分前となった。
クローライトの面々は、ルベライト家の待合室へと向かう。
案内のメイドが、ルベライト家の待合室のドアをノックする。
私は、唾を飲み込み、開けられた扉から中に入る。
ソファーから立っていたヘンリー様が私のもとへとくる。
”ギュッ”
と。ヘンリー様に抱きしめられる。
「・・・会いたかった。」
耳元で囁くヘンリー様の声が、全身に響いていた。
私は、声を出せずに、ヘンリー様の背中に手を回す。
「連れて来て貰って感謝をする。本来ならこちらから赴くべきだが、そうしてしまうとヘンリーが、サーシャの着替え途中でも構わず、迎えに行くところだった。」
エリック様が、頭を下げてお礼を言った。
だが、なんでだろう。
エリック様の言った内容が恐ろしい気がして、ヘンリー様の背中に回した手の力が緩めた。
すると、ヘンリー様も腕の力を緩め、私のかを見て、すぐに額にキスをする。
私は、驚き後をにのけぞると、今度は口にキスをする。
恥ずかしくなり、唇が離れるとすぐに俯いた。
「せっかく、メイドが張り切って綺麗にしてくれたのに、リップが落ちてしまいました。」
私は、ヘンリー様に弱々しいが文句を言ってやった。
「それは、良かった。綺麗すぎるサーシャは、なお一層、他の男がよって来るからな・・・危なっかしくてならない。」
ヘンリー様の言葉に、返事が出来ずに、抱きしめられるままでいた
「ヘンリー殿が、ここまで殺し文句を言う人間だとは思わなかった。」
呆気にとられる感じに口に出すライ様。
「ライナス。いい見本だ。覚えておけ。」
と、感心しないでください。マティアス様!
「お時間となりました。会場へお越しください。」
と、メイドが声をかけて来てくれた。
ルベライト家の一行と、クローライト家の一行が、そろって会場へと向かう。
私は、しっかりヘンリー様に手を握られ、会場へと向かった。
キンバーライト城の礼拝堂に入る。
祭壇の中央には 木が飾られている。
本物の木ではなく、樹木が黒漆で塗られ、葉が銀で出来た物で、ドラゴンの大樹を模している置物だ。
その左右には、黒漆のドラゴンが飾られている。
地域によって違うが、中央に樹木。その左右にドラゴンの置物を置くのが祭壇の飾りとなっている。
ルベライト城は、螺鈿の樹木に銀の葉、紫真珠の実まで付いた樹木に、赤い真珠を全身にちりばめたドラゴンの置物だった。
まあ、領主の礼拝堂は、領地が困窮した時の非常用の資産なのだろう。
相当豪華な作りとなっている、
一般的には、全部木彫りで、ペンキで色を塗る程度の物なのだろうな。
ああ、故郷イリス帝国の実家の祭壇飾りは、金銀宝石でちりばめられていたっけな。
まあ、もう、何一つなく、売り払われているのだろう。
祭壇近くの椅子は、中央のレッドカーペットに向いて置かれていた。
公爵家の色の布が張られた椅子があり、赤い椅子にヘンリー様に手を繋がれたまま座る。
ヘンリー様のそのまま、隣の席に座る。
・・・ずっと、手を握ったままだ。
ヘンリー様の椅子の肘掛けに、私の手が捕らえられたままになっております。
自分の手汗が気になるので離して欲しいのですが・・・離してくれる気はなさそうです。
就任式が始めるトランペットの音が鳴りだす。
私は、自分の手を引くも、ヘンリー様に捕らわれたままだった。
ホレス様と、ハミッシュ陛下とカリスタ様が一緒に入ってくる。
祭壇の前に3人が立つと、今度は、ピアーズさんが、布の台を持って入ってくる。
3人前にピアーズさんが来ると、ハミッシュ陛下が、ホレスさんの礼服に付けている勲章を外し、布の台に置く。
それを持ちピアーズさんが脇に掃ける。
すると、拍手がわく。
礼拝堂に、今日の主役であるセシル様とセラ様が入って来たからだ。
私も、拍手をしようと手を引き抜こうとするも、ビクともしない。
ヘンリー様の方を見ると、いきなりキスされた。
私は、反対の手でヘンリー様の胸を押し唇を離し、首を左右に振り、場所を考えろと目で訴えた。
ヘンリー様は、解ってくれたのか、セシル様とセラ様の方に目を向けた。
だが、手は離してくれなかった。
拍手をできないまま、セシル様とセラ様が祭壇の前に来ると、再び、礼拝堂に布の台を盛った人が現れる。
布の台には、先ほどのホレス様の物とは違うが似たような勲章が置かれていた。
その布の台がハミッシュ陛下の所へ来ると、ハミッシュ陛下が、セシル様の礼服につける。
大きな歓声と拍手が礼拝堂に響く。
お祝いの拍手を送りたくても、ヘンリー様が手を離してくれなくて、ただそれを見るだけだった。
次に来た、少し小降りになった勲章がセラ様に付けられた時の拍手も、ただ見ているしか出来ず。
セラ様の付けた勲章よりもシンプルな勲章を、今度はセシル様がホレス様に付けた際も、見つめることしか出来なかった。
がっしりと私手は、ヘンリー様に捕らえられていた。