一緒に・・・
イライアス王子の話が終わり、その日はダンビュライト城へ泊る事になった。
夕食を頂き、お部屋へ案内される。
案の定、ヘンリー様と同じ部屋だ。
えっと、まだ正式に夫婦として認められていないはずですが・・・困ったな。
私は、案内されたメイドの方を振り返り、目で訴えてみた。
「ヘンリー様と、別のお部屋にしても、その・・・ですから・・・。」
メイドは、徐々に戸惑い気味な口調になり、次の言葉を濁らす。
仕方がない、ヘンリー様にお願いして、別々の部屋を用意して貰おう。
「ヘンリー様。別々の部屋でもいいですよね。」
当然な雰囲気で、別々のお部屋だという様に言ってみた。
「どっちにしても、同じベッドで寝る事になるから、最初からお同じ部屋でいいだろう。」
よくありません。
「今夜は、静かに、ゆっくりと、確実に、ずっくりと眠りたいのです。」
私は、真剣な眼差しで訴える。
「それって、うれしい傾向だよね?」
と、部屋に入って来たのは、グレアム様とハワードさんだった。
「ハワード。サーシャ荷物を持って差し上げて」
解ってくれる人は、解ってくれるのね。
グレアム様は、ドアの方へ手を差し向けた。
「グレアム。どこに運べばいいのだ?」
私の荷物をキョロキョロ探しているハワードさんが言う。
「俺の部屋の隣、もしくは俺の部屋。」
「ダメだろうが!!」
”がしっ”
と、ヘンリー様に腕を掴まれ、ヘンリー様の腕の中にしっかりと包まれる。
・・・やばいな。
「サーシャは、俺の妻だ。」
「別に、ヘンリー殿の妻であろうがなかろうが、関係ないのだが・・・。」
グレアム様が、ヘンリー様の腕に誘われた際に離れた手を再び取る。
そして、ヘンリー様に抱きしめられているままで、私の手の甲にキスをした。
「サーシャの子の父が、俺というのが大事なことですから。」
”バチンッ”
と、ヘンリー様は、グレアム様の手を払う。
「ヘリオドール一族の女性であることが重要なグレアム殿に、サーシャでなくてはならない俺が、サーシャに触れるのさえも許すわけないだろう。」
私を抱きしまたまま、グレアム様からじりじり距離を取るヘンリー様。
「次、ウィリアム殿に会った際は、グレアム殿がヘリオドール一族の女性に興味を持っている事を伝えておこう。アリエルを気に入ったウィリアム殿だ、きっと見合いを設定してくると思うぞ。」
私を抱きしめたまま、部屋の奥へじりじりと歩みながら、ヘンリー様は言った。
”グイッ”
と、回転をかけられながら、私はヘンリー様の腕の中からはぎ取られるように離れ、今度はグレアム様の腕の中へと納まる。
「ぐ、グレアム様っ、はっ、離してください!!」
私は、いきなりの事で驚くと同時に、ヘンリー様以外の男性に抱きしめられている緊張感に顔を真っ赤にし、離れようと腕に力を入れる。
・・・まったく、ビクともしない。
「サーシャから、離れろ!!」
ヘンリー様は、私の両肩を持ち、グレアム様から勢いよく引き離し、ヘンリー様の腕の中に戻る。
「サーシャは、祖父ではなく、父も気に入っているのですから、そう易々と諦めるわけないでしょう。」
諦めて貰ってよろしいのですが・・・。
こんな状況では特にです。
どんどんエスカレートするよね・・・これって。
「特に今日のモーモー君のと会話。父は感心してたんですよ。」
グレアム様が、一歩向かってくるが、ヘンリー様が私を抱きしめたまま、グレアム様に背を向ける。
「父が、モーモー君を家畜と化すのにかかった日数をかけずに、サーシャはモーモー君を家畜にする事が出来る才能があるって、父が言っていました。」
どういうことなの?
私、普通にイライアス王子とお話していたはずなのだが・・・。
「モーモー君の一番の望みだった王太子の位を、いとも簡単に叶えられた方法があった事を伝えただけでもモーモー君は辛いのに、どこが一番ダメだったのか、ダメ押しをサラッと言ったあたり、さすが王家も操るとされる一族の人間だと感心してましたよ。」
感心しなくていいです。
そんなつもりで言ってないですから、そこのところ間違えないで欲しいです。
「サーシャ。お部屋を用意できますので行きましょう。」
”サッ”
と、グレアム様がヘンリー様の脇に入ろうとする。
”ぐるんっ”
だが、すぐにその場でヘンリー様は周り、グレアム様に背を向ける。
「ヘンリー殿。サーシャに嫌がられているのですから、諦めてください。」
”ササッ”
再び、グレアム様が動き出す。
”ぐるりんっ”
ヘンリー様も対抗して回りだし、私も一緒に体を動かされる。
「嫌も嫌も好きのうちです。人の恋路を邪魔はしないで欲しい。」
”サッ”
「それは、こちらのセリフですね。」
”グルッ”
そろそろ目が回り出したので、辞めて頂けると有難いのですが・・・。
私は、何も言えずに、2人のやり取りを困惑しながら聞くしか出来なかった。
「うぐっ」
私は、吐き気を催し、ヘンリー様を突き放した。
「サーシャ?」
一瞬、ヘンリー様を見たが、すぐに洗面所へと急ぐ。
”バタンッ”
「ぐえ~」
と、洗面台の流しに吐いた。
”ジャー―――ッ”
嘔吐物を水に流してから、口をゆすぐ。
蛇口の栓を閉めて、顔を上げる。
鏡には自分の顔、そして、その後ろにヘンリー様の顔が映っていた。
「サーシャ・・・もしかして・・・つわり」
「では、ありませんから、夕食のオムライスですから!!」
そうなのだ。
夕食に出されたのが、美味しいが途中から胸やけで具合の悪くなる、フレディ様お勧めの『デミグラスソースのオムライス』だったのだ。
「だから、安静にしていたかったのに!!」
私はヘンリー様の方を振り向き訴えた。
「美味しいオムライスなのに・・・最後まで消化させてよ。もったいないじゃないの!!」
ヘンリー様は、私の頭を撫でてから、優しく抱きしめた。
「・・・ごめん、サーシャ。」
優しく囁くように言っても・・・私、怒っているんですからね。
「どうしてヘンリー様は、大丈夫なのですか?」
ヘンリー様も同じオムライスを食べているのに平然としている。
「それは、慣れだな。俺も、初めのうちは戻していた。」
なるほど、フレディ様の孫であるグレアム様もケロッとしているが、こちらも慣れですね。
「飲み物を頼んできますね。」
ハワードさんが、そう言うと洗面室の出入り口から出て行く。
「ほら、グレアムも行くよ。」
ハワードさんは、出て行った先にいたグレアム様に声をかける。
「どうして俺まで?」
グレアム様は、部屋にいる気満々なのに、足はハワードさんと一緒に部屋の外へ向かっていた。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるぞ!」
「馬には乗らないから、蹴られるわけないだろう」
「ドラゴンにでも蹴られたりするのではないか・・・。もし、コスモが仕掛けたりしたら、ダンビュライト公爵の跡取りとして困るだろう。」
ハワードさんの一言に、瞬時にハワードさんの方に顔を向けるグレアム様。
「大惨事だ。なんという大惨事なんだ・・・。」
グレアム様がショックな顔を見せた。
「ほら、グレアム。行きますよ。」
そう言い、グレアム様とハワードさんは部屋を出て行った。
ヘンリー様と私の2人きりになった部屋。
何となく、部屋の静けさに戸惑ていた。
「サーシャ。眠る支度でもしようか。」
「そうですね、飲み物が来るまで、出来る支度もありますからね。」
ヘンリー様もどうやら、部屋の静けさに戸惑っているようだった。




