自重しない者たち
”ダンッ”
と、勢いよく机を叩く。
目の前には、ヘンリー様が書類整理を瞬殺でこなしていたが、手を止させた。
「サーシャ様を解放してください!」
「そう言ってもサーシャは、俺の寝室で眠っているところだ。休ませてあげて欲しい。」
一瞬、私を見たが、すぐに書類を見て、手を動かすヘンリー様。
「休ませて欲しいというなら、寝室に一日中閉じ込めさせないでください!!」
サーシャ様の前世の話を聞いた晩から、サーシャ様は丸一日、ヘンリー様の寝室で過ごされている。
「サーシャ様を独占しすぎです。」
「たった一日ではないか・・・それに仕事はしっかりこなしているだろう。」
確かに、本日の書類整理は後少しで終わる。
だが、しかし、丸一日独占しているってどうなのですか?
「マリーさん。丸一日は、可愛い方ですよ。」
と、言葉を挟んできたのはフィオナさんだった。
このフィオナさんも、サーシャ様と同じ前世持ちだと教えて貰った。
「王都の屋敷では、学園から帰ってから学園に戻るまでの3日間。サーシャ様を独占してますから。」
どれだけ、独占すれば気が済むのだ。
「フィオナさん・・・何故、お止めないのですか!?」
「そう言っても、ヘンリー様に可愛がられた後のサーシャ様って、微笑ましい反応をするのですよ。」
”ダンッ”
”ダンッ”
と、ハモルように机を叩く音が響いた。
「サーシャで遊ぶな!」
「サーシャ様をまずは第一に考えてください!!」
私とヘンリー様の訴えに、顔を引きつらせるフィオナさん。
「一週間に一晩でお願いします!」
ヘンリー様は、すぐさまモーリスのほうを見る。
「モーリス、お前はそれで足りるのか?」
モーリスになんてことを聞くのですか?
「・・・足りませんね。今は産後で我慢してますが、医師の許可が下りれば、私はどうなってしまうかわかりません。」
素直に答えなくていいのよ!
ここは、はったりかましてサーシャ様を助けるところでしょう。
「マリーさんの顔が赤くなってますね。初めて見ました。」
フィオナさんが冷やかしてきた。
「マリー。まあ、仕方あるまい。ここはモーリスの気持ちに免じて、毎晩でもいいだろう。」
「何故、そこでモーリスが出て来て、毎晩になるのですか。それにヘンリー様は一日中でしょう!」
自重してくださるのが常識でしょう!
「できればな・・・・。」
他人事のように言うヘンリー様に、私は苛立ちを見せる。
「マリーさん。へんりー様は、マリー様に嫉妬されているのですよ。幼い頃からサーシャ様を知っていらして、成長も見てきたのです。ヘンリー様の知らないサーシャ様をマリーさんは見てきたのです。嫉妬の一つや二つするモノでしょう。」
フィオナの言葉にヘンリー様は、そっぽを向いているが頷いている。
「出来る事なら、サーシャが生まれた時に、両親ごと引き取りたかったよ。この手でサーシャを生き生きと育てたかった。」
私もそうして欲しかったですよ。
でも、現実は違います。
「うわ・・・本当に恐ろしいですね。黒歴史を独身で乗り越えた人って・・・。」
フィオナの顔が引きつっていた。
「まさに、いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなきー・・・な、世界だわ。歴史を感じる。」
口に手をやりながら、答えているフィオナ。
だが、話しの内容がわからないのだが・・・。
「どちらにせよ、サーシャ様を大切にしてください!」
私が一番いいたかった事をヘンリー様に伝える。
「大切に決まっているだろう。」
「では、もう暴走はしないと約束してください!!」
そうよ、一日中寝室に閉じ込める何て、生き生きと育ているとは言えないわ。
「出来るかよ。暴走も時に絆を深める行為だ!」
何が絆を深める行為よ、暴走しすぎなのよ!
「仕事に支障をきたした時に言ってくれ、今はしっかりと仕事をこなしているだろう。文句を言われる筋合いはない!」
書類整理はしっかりこなしているけど、サーシャ様の体が心配なのよ。
全く、どう家は解ってくれるのよ、この変態公子が!!
「なら、支障をしたすから、今晩はサーシャを自室でゆっくり寝かせてね。」
と、聞き覚えのある声がする。
でも、この声の主って、ルベライトにいるはずがない、ダンビュライトにいるはずでは・・・。
ヘンリー様も、書類の手がピタッと止まった。
「やあ、早速だけど、僕の為にお茶を用意してくれる?」
モーリスが、すぐに部屋から出て行った。
「ああ、冷たい飲み物がいいから、コスモに氷を頼んでくれるとうれしいな。臙脂様でもいいよ。熱い中、休憩なしでここまで来たんだもん、それぐらい当然だよね。」
ため息を付くヘンリー様。
「それで、どんな用でここに来たんだ。フレディ?」
呆れる口調でヘンリー様が言う。
「息子が、素晴らしい調教をしてくれて、だから、聞きたいことがあるんじゃないかと・・・ホルンメーネの事をいろいろとね。だから、ダンビュライトにヘンリーとサーシャを招待しに来たんだよ!」
ニッコリ笑顔でヘンリー様に伝えるフィレディ様。
それにしても、天使のような顔をしながら、言っている事は悪魔のような発言だわ。
「招待状ってあった方が良かった?」
「今さらいらないよ!」