成長
「サーシャ様・・・どうなされたのですか?」
私は、ゆっくりとサーシャ様に近づく。
どんどんと、サーシャ様の顔が恐怖に満ちて行く。
私が・・・何か・・・サーシャ様に恐怖を与える行動・・・したのでしょうか?
全く思いつかない。
これって・・・つまり・・・専属メイドとして・・・自分が怠っているってことではないの?
”ピタ”
私は、その場で止まる。
だって、専属メイドとして最低じゃないの。
主であるサーシャ様に寄り添う事が出来ない事をしたのだから・・・。
「ごめんなさいマリー・・・・ごめんなさい・・・。」
サーシャ様が涙を流しながら言う。
「何故・・・そんなに泣いているのですか?」
私は、その理由を察してあげられれない。
「何で・・・マリーは、謝っている理由でなく、私が泣いている理由を聞くの?」
「私に謝って頂く理由がないからです。」
「あるから言っているの!!」
サーシャ様が叫ぶ様に言う。
言ってすぐに肩の力が落ち、悲しい顔をするサーシャ様。
「えdも・・・誤っても、自分の気休めでしかない。マリーが私に信頼を置いているのに、私はそれに答えていないわ。」
ポロポロと床に涙が零れていた。
「サーシャ様は、私の幸せを思っていてくださっているではないですか、ホルンメーネで私と別れたのも、私の幸せを思ってのことでしょう。」
だから、あの時、残念だけど、ウィリアム様のもとに戻った。
「ナーガに帰ってからすぐ、ウィリアム様の命令でドラゴニアのサーシャ様のもとに駆け付けましたが、私以外の者がく行けば良かったですか?」
「嫌よ!!」
すぐさま顔を上げ、私を見て言ってくれた。
「それだけで充分です。だって、ドラゴニアに来た事で、サーシャ様の本来の笑顔を見る事が出来ましたし、私も結婚して子供まで生まれました・・・私、とても幸せですよ。」
ゆっくりとサーシャ様に近づく。
近づいても、サーシャ様の体は震えていない事に安堵する自分がいた。
「子供の名前・・・考えて頂けましたか?」
サーシャ様は頷いてくれた。
「・・・リホウ。」
「リホウ・マディラ・・・素敵な名前をありがとうございます。名前の由来は何でしょうか?」
私の質問にサーシャ様顔色が一瞬で暗くなった。
「・・・私の兄の名前。」
サーシャ様に、ロゼリス様の他に兄がいるとは聞いていない。
デューク様に隠し子がいたという事かしら?
「前世の私の兄の名前・・・浅見利鵬・・・それが私、浅見沙弥那の兄の名前・・・・私、ずっとマリーに、私が前世持ちだってこと・・・隠していたの。」
一瞬、頭の中が真っ白になったが、次の瞬間、全てが辻褄が合う事に気づく。
サーシャ様が、子供っぽくなかったこと、頭の良さ、そして機転の利き方が・・・。
「気が付いてあげられずに申し訳ございません。」
「何故、マリーが謝るのよ・・・反省すべきは私。マリーを信頼していても、打ち明けられなかった私がいけないの・・・弱い私がいけないの・・・マリーは何も悪い事はしていない。」
サーシャ様がこんなにも号泣するとは・・・驚きだわ。
でも・・・とても人間らしい。
こんなにも人間らしさを、これまで隠されていたのですね。
「ホルンメーネで別れた際。とても心配をしていました。心配といっても生死の安否であって、人間性の安否ではありませんでした。年齢にしてはサーシャ様はしっかりなさっていましたから・・・。」
私は、サーシャ様を抱きしめる。
「申し訳ありませんサーシャ様。こんなにも人間らしいお方を支える事が出来ずに、ご自身の中に隠させていました。」
サーシャ様は首を左右に振る。
「そんなのは、仕方がなかった事で、マリーが悪いなんて事はないわ。」
「では、これから徐々に知る事ができるのですね。楽しみです。」
サーシャ様の手が私の背中に回る。
「なんで、許すのよ。」
「許すも何も、イリス帝国のあの環境下では仕方のない事でしょう。それよりも、ドラゴニアでのこれからの、人間らしいサーシャ様をずっとそばで見守っていられるの事の方が、とても楽しみなのです。」
”ギュッ”
と、サーシャ様が私の背中の服を掴む。
「それでも、イリス帝国にいた時に・・・話したかった。」
「それだけで十分ですよ。」
「そう言っても、私は自分が許せないの。こんなにも、慕ってくれるマリーに、しっかりと答えてなかったモノ。」
私は、抱きしめながら、サーシャ様の頭を撫でる。
「今、しっかり答えてくれたではありませんか。」
サーシャ様は『でも・・・でも・・・』と、何度も同じ言葉を繰り返す。
「心が、成長をされたのですよ。」
サーシャ様の言葉が止まる。
「イリス帝国で成長できなかった心が、ドラゴニアに来て成長をされたのですよ。笑顔も、涙も、信頼も。」
本当にサーシャ様は、ドラゴニアで心を磨かれている。
心を広げられる環境にいる事でみるみると、表す事の出来なかった感情も露わになって、人間らしく・・・成長されている。
「サーシャ様、イリス帝国にいる頃より、ずっと綺麗になられました。そして、ずっと心が豊かになられました。だから、私の事もこんなにも思って下されて・・・ありがとうございます。」
私は、サーシャ様の肩に手を置き、サーシャ様を覗き込む。
人間らしく泣いているサーシャ様に微笑む。
「これからも、今まで以上によろしくお願いします。」
私の言葉にサーシャ様は、何度も頷きながら、大粒の涙を流しくれた。