表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

388/423

吉報

 「どっちなんだ?」

 「先ほど、泣き声がしたが、無事なのかな?」

と、マティアス様とエリック様が、部屋を出ると、すぐに椅子から立ち上がりこちらに来た。

 「無事に男の子が誕生しましたよ」

と、ヴァネッサ様が言うと、マティアス様とエリック様が嬉しそうに手を握り握手をし、喜び合う。

 「・・・ヘンリー様。」

 私は、部屋から出て、ヘンリー様の方へ向かう。

 先ほどやっと、涙が止まったと言うのに、廊下を出てヘンリー様を見ると、再び涙が出てきた。

 「サーシャ。」

と、ヘンリー様は私を抱きしめてくれて、そのままソファーに一緒に座る。

 「出産の立ち合い出来て良かったな。」

 ヘンリー様の言葉に私は、ヘンリー様の腕の中で頷いた。

 「すまないが、先に見て来るからね。」

と、エリック様の声がして、周りにいる人たちの移動する音がする。

 「私は、他の方々にも伝えてきます。」

 デボラがそのように言う。

 「ヘンリー様も、赤ちゃんを見に行きますよね。」

 私は、頭を上げてヘンリー様を見つめながら言う。

 「後で見に行けばいい。今はサーシャの涙を止めないと・・・。」

と、言いながら、私の涙を指で拭ってくれ、再び包むように抱きしめてくれた。



 ◇ ◇ ◇



 ここは、何度来ても、憂鬱な場所だ。

 ホルンメーネ国に戻って来てから1週間。

 宮殿の廊下をすれ違う人は、必ずと言っていい程、白い眼で俺を見る。

 人によっては、コソコソ話をする奴もいる。

 だが、この目も、ナーガ王国から黄金のドラゴンの首さえ来れば、一気に俺を見る目が変わるだろう。

 俺を崇め称える賞賛の目が浴びせられる事となる。

 

 ”キラッ”

 窓の外から、太陽の反射がこちらに向かって光り出した様に見えた。

 すぐに俺は警戒をする。

 ”パリ――ンッ ドスッ”

と、窓ガラスが割れ、俺の目の前を矢が通過した。

 「ウィニー大丈夫か?」

 後ろを歩いていたアルベルクがかばう様に、俺の前に来た。

 「お前の目は節穴か?」

 「ああ、悪かったな。窓ガラスの破片ですらウィニーには降りかかっていないよな。」

 イラっとした感じに言うアルベルトの通りに、全く無傷なのだ。

 もちろん、アルベルトもだ。

 ”ズボッ”

と、城の衛兵の一人が壁に刺さった矢を引き抜く。

 「タルクウィーニオ王子殿下。こちらをどうぞ。」

 衛兵が矢を俺に差し出す。

 その矢には、手紙が括られていて、見える場所に俺の名が書かれている。

 俺宛ての矢文だ。

 



 ―――――――――――――――――――――――――――――


    ナーガ王国から、吉報をお知らせします。

  

   この度、ウィリアム・ヘリオドールの妹ステラが、

  我が子のように可愛がっていたロゼリスが、めでたく

  懐妊をいたしました。

  ロゼリスの心を射抜いたあなた様に、まずは報告を

  させていただきました。

  

  射抜くと言えば、黄金のドラゴンが、ナーガ王国で

  矢を射られてしまいました。それも毒矢にです。

  ですが、こちらも無事に回復をされ、ドラゴニア王国へ

  戻られました。

  なお、黄金のドラゴンを射抜いた矢に、塗られた毒と

  同じ物を、この手紙の矢文の矢にも

  塗らさせていただきました。

  もし、その矢で怪我したのなら、黄金のドラゴンと

  同じ様に、ユニコーンの角を使うとよろしいでしょう。

  お勧めしますよ。

  

  

                ウィリアム・ヘリオドール

  

  ―――――――――――――――――――――――――――――



 「・・・・。」

 ”グシャッ”

 俺は、手紙を握りしめる。

 「ぐあっ・・ああ・・・・っ」

 壁から矢を抜いた衛兵が苦しみだした。

 壁から矢を抜いた際に、手に怪我をしてしまったのだろう。

 ”スタスタスタ”

 俺は、廊下を歩きだす。

 こんな者に、ユニコーンの角を使うわけがないだろう。

 怪我した衛兵が悪い。

 「行くぞ、アルベルト。」

 ついて来るはずのアルベルトの足音がしないので呼ぶと、追いかけるように足音が聞こえて来る。

 「ウィニー、あれって」

 「死ぬしかあるまい。」

 俺の答えに、アルベルトはため息を付いた。

 「こんな事に、煩っている暇はない。ドラゴニアへ行くぞ。」

 俺は、再びドラゴニアに行く事を伝える。


 今度こそ、今度こそ、苦労の知らない王子たちを出し抜く。

 そして、俺が王太子になるんだ。

  

  

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ