立ち会う
”ドクンッドクンッドクンッ”
心臓の鼓動が、体中に大きく鳴り響いている。
「さあ、サーシャ様。」
と、デボラに背中を押され、部屋の中に入って行く。
「・・・サーシャ様・・・んっ」
疲労感がにじみ出ている声でマリーが私を呼び、痛みに耐えている顔を私に見せる。
マリーのお腹から、赤ちゃんが生まれようとしている。
モーリスは、マリーの陣痛が始まってからずっと付き添っていて、今もマリーの腰をさすって、少しでもマリーを支えようと懸命に動いている。
大きなクッションを抱えた状態で四つん這いになっているマリー。
この世界は、仰向けで両脚を広げての出産ではないようだ。
「うぅぅ・・・。」
陣痛の痛みに耐えかねてマリーが、喉を鳴らすように小さく唸った。
「マリー。」
私は、マリーのもとに駆け付けて、モーリスの反対側でマリーの腰をさする。
「マリーさん。細く、ゆっくりと息を吐いてください。」
と、デボラがマリーの肩をさすりながら言う。
流石はお産経験者のデボラだ。
どうすればいいのか、身を持ってわかっている。
「ゆ~っくり・・・ゆ~っくり。」
呼吸法をマリーにも理解できるように、ゆっくりと声をかける。
私を含め、この部屋にいるモーリスも一緒になってゆっくりと息をする。
”ガラガラガラ”
と、女医がワゴンを引き部屋に入ってくる。
ワゴンには、大量の綺麗な布と、医療器具が何点か置かれている。
女医がマリーのお尻の方へ行き、覗き込む。
「頭が見え始めてきましたね。」
女医がボソッと独り言を言いながら、ワゴンから布と瓶を取り出す。
「赤ちゃんを出やすくするために、オイルをかけますね。」
瓶の中のオイルが少なくなった。
「次、痛みが出てきたら、イキみましょう。」
とうとう、イキむように女医から指示が出された。
これからが、出産の本番なんだ。
ナーガ王国から帰って来てから8日が過ぎた。
何度か、キャサリン様とヴァネッサ様、それにデボラと一緒にお風呂に入り、マリーのお腹の大きさを見る事が出来た。
その時、赤ちゃんがマリーのお腹を蹴り、お腹がポコッと出た瞬間も見ることも出来た。
後は陣痛を待ち続け、昨日陣痛の痛みが出たとマリーが言った。
でも、陣痛が始まるも、痛みが全く無くなり、モーリス以外は交代で休憩をとる運びとなり、一日が経過していた。
「ぐううぅぅ・・・。」
マリーが痛みに喉を鳴らす。
「はい、イキみましょう。ん――――!!」
と、女医の言葉に、自分も力が入り、周りも一緒になってイキんでいた。
「んいいいいあぁぁぁぁーー・・・。」
「はい、一端、息を吐きましょう。」
部屋にいる者たちが全員息をゆっくりと吐く。
マリーも息を吐くも、『はあ、はあ』と、とぎれとぎれの息となっていた。
「イキむ時に声を出さない方が、力が入りますからね。」
女医が優しくコツを教えてくれる。
マリーは、コクンコクンと頭を上下し、朦朧としていながらも理解したことを伝える。
「マリー。」
と、モーリスがマリーの手を握る。
がっしりと掴まれた手と手。
「サーシャ様も、マリーさんのもう片方の手を握って差し上げてください。」
と、デボラが言って来た。
私は、少し戸惑う。
本当に、私がマリーの手を握ってもいいのだろうか。
こんな、母親の愛情を受けた記憶がない私が、母になろうとしているマリーの手を握っても、心強いのだろうか・・・。
サブタイトルが決まり次第、次の話出します。