〇番外編〇 ママしゃま、パパしゃま、ネネしゃま
サーシャが3歳の時のエピソードが含まれています。
「うわ~ん。」
隣の部屋から、大泣きをする声が聞こえますわ。
サーシャが、昼寝から起きたのですね。
あの子ったら、寝起きに必ずと言っていい程に、泣きますから驚いてしまいますわ。
義母を困まらせているのが、解らないのかしら?
ここは、サーシャの姉として、叱ってあげますわよ。
私は、意を決してサーシャの部屋へと向かう事にしました。
「あらあら、どうしたのですか、サーシャ?」
・・・暖かい。
・・・優しい。
何かに、包まれている・・・。
暖かく、優しいモノにしがみついてるのに、気が付き目をあける。
「ママしゃま」
「サーシャ。また、怖い夢を見たのですか?」
ママ様は、私を抱き上げて、近くの椅子に私を抱えたまま座った。
「私に、お話してくれないの?」
「みんなが・・・わたしを、きらいって・・・にらんで・・・。」
大人の人たちが、遠くの方で、私の事を蔑むように睨んでいたのだ。
凄く悲しくて、辛くて・・・恐かった。
”ぎゅっ”
と、ママ様は私を包み込むように抱きしめる。
・・・悲しさが、小さくなっていくのがわかる。
「私は、サーシャのこと大好きよ。」
”きゅっ”
と、私は、ママ様を抱き返す。
この温もりは、どうしてこんなにも安心が出来るのだろうか・・・。
それが、こんなにもうれしい。
「サーシャは、私の事・・・すき?」
そんなのは、判り切っている事よ。
「しゅき・・だいしゅき!」
私は、綺麗な緑色の瞳をしているママ様の顔を見て言う。
「まあ、うれしいわ!」
ママ様は微笑んでくれた。
”とんとん”
ママ様は、自分の頬に指さす。
私は、どうすればいいか知っている。
ママ様が指さした頬に、私はチュウをする。
”チュッ”
と、今度は、ママ様が、私の頬にチュウをしてくれた。
「・・・?」
ママ様は、部屋のドアの方を見て止まったのが伺えた。
私は、ドアの方を振り向くと、そこにはネネ様がいた。
「ロゼリス。そんな所にいないで、お部屋に入って来ていいのよ。さあ、私のところへ。」
ママ様が言うと、ネネ様は、おどおどしながら私の部屋に入ってくる。
恥ずかしそうに、ママ様の隣に来る。
「ネネしゃまは、ママしゃまのこと・・すき?」
私は、何か言いたげなネネ様に、なんとなく聞いてみた。
「好きに決まっていますわ・・・大好きですわ、お義母さま。」
「ありがとうロゼリス。私も、ロゼリスのこと大好きよ。」
そうママ様が、ネネ様に返事をすると、ママ様は私が頬にチュウをした反対の頬をトントンと指さした。
ネネ様は、ママ様が指さした頬にキスをする。
返事をするように、今度はママ様がネネ様の頬にキスをした。
「奥様。団欒なところを失礼いたします。旦那様がお帰りです。」
メイドが私の部屋へ入ってくると、パパ様が帰ってきたことを伝えた。
「パパしゃまの、おむかえ!!」
久々にパパ様に会える。
私は、ママ様の腕の中から降りる。
「ママしゃま、ネネしゃま、おむかえなの!」
私は、ママ様の手を取り引っ張る。
「まあまあ、サーシャは、お父様の事が好きなのね。」
「しゃっきもいった。ママしゃまもすきなの。パパしゃまもだけど・・・。」
ママ様は、ニッコリ笑顔を向けてくれた。
「ロゼリスも。一緒にお父様のお迎えに行きましょう。」
ママ様は、私と繋がっていない手をネネ様と繋いだ。
廊下を歩きながら、パパ様が一か月の間、パパ様が見ている領土、西の町の視察をしに言っていた事をママ様は教えてくれた。
「ガラス工芸で有名な町と聞いています。」
ネネ様は、パパ様の行っていた町の事を図書室で、調べていたようだ。
「ガラしゅって・・・あれのこと?」
私は、天井にぶら下がっている物を指さす。
「ええ、そうね。シャンデリアというのよ」
「シャンじぇリア?」
ママ様、ネネ様と、玄関ホールに向かうまで、ガラスで出来たステンドグラスや、ランプシェードなどを見つけながら向かっていた。
「パパしゃま!!」
玄関ホールに行くと、パパ様が玄関から丁度入ってくるところだった。
私は、ママ様の手を離し、パパ様の方へと向かう。
「サーシャ!!」
パパ様は、私を向かい入れ、抱き上げてくれた。
「おかえりなしゃい。おちゅとめ、おちゅかれしゃまです。だいしゅきです!」
そう言い、私はパパ様の頬にチュウをする。
パパ様はニッコリと笑ってくれる。
「ただいまサーシャ。私もサーシャのこと大好きだぞ!!」
パパ様は、そう言うと、私の頬にキスをしてくれる。
「う―――ん、可愛い私のサーシャ!!」
”じょりじょりじょり”
と。私の頬に頬ずりをするも、パパ様の無精ひげが擦れて、嫌な刺激を感じていた。
「パパしゃま、しゅきだけど、ジョリジョリは、いやっ」
私は、パパ様のジョリジョリ攻撃を手で必死に抑える。
「それは、すまなかった。早く帰りたい一心で、上手く髭が剃れてなかったのだね。」
パパ様は、微笑を浮かべながら謝ってくれる。
「お父様。お帰りなさいませ。」
と、少し恥ずかしそうに、ネネ様はパパ様にお迎えの挨拶をする。
「うん、ただいま。ロゼリス。」
パパ様は、少し体制を落とし、ネネ様も抱き上げた。
「ロゼリスもサーシャも、お利口さんにしていたか?」
ネネ様も私も、『もちろん』と、答える。
「ネネしゃま。パパしゃまに、おむかえのチュウは?」
私は、ネネ様が、パパ様にお迎えのチュウをしていない事に気づき伝える。
ハッとするネネ様に、パパ様は、今か今かと頬をネネ様に近づける。
”ちゅっ”
と、ネネ様は、パパ様にお帰りのチュウをした。
「デューク様。お帰りをお待ちしてました。」
「ただいまステラ。」
パパ様は、少し体制を落とす。
すると、パパ様のおでこにママ様はチュウをする。
そして、体制を上げながら、パパ様は、ママ様のおでこにチュウをした。
「うん、やっと我が家に帰って来たと思える。感動のお出迎えだね。」
パパ様は、ネネ様と私を見ながら、帰って来た喜びを言った。
「あら、困りましたわ。私は家族としてのみのお出迎えしかしていません。妻としてのお出迎えはまですのに・・・。」
ママ様はそう言うと、自分の唇にトントンと指さす。
「え?・・・子供のまえだぞ。」
戸惑うパパ様。
「夫婦の絆というモノを多少教えるのも、家族として必要な事だと思いませんか?」
ニッコリ笑顔で訴えるママ様に、パパ様は『エー――』と、小声ながら戸惑う唸りを述べていた。
「デューク様。愛していますわ。」
ママ様は、堂々と誇らしげに告白をする。
その、一言にパパ様は、戸惑う顔が一瞬で微笑みに変えた。
「負けたよステラ。私も愛しているステラ。」
そう言うと、パパ様は、ママ様の唇にチュウをした。
「わあ~」
私は、なんとなく両手で自分の口を塞いた。
頬が暖かくなっていくのがわかった。
「ロゼリスもサーシャも、いつかデューク様のような素敵な殿方を見つけて、堂々と愛情を伝えあえる関係を築いてね。」
ママ様は、ネネ様と私の背中に手を回して伝えて来た。
「さあ、デューク様から素敵なお話し聞くために、お茶にしましょう。」
そう、ママ様がニコやかに言う。
◇ ◇ ◇
”パチクリ”
目の前には、金色のドラゴンの文様が見える。
ゆっくりと身を起こし辺りを見る。
・・・ここは、エメリー修道院だと気づく。
”ボケーーー”
と、何かを思い出そうとする。
・・・・何を思い出そうとしているのだろう。
思い出そうとしているのが、さっきまで見ていた夢まではわかる。
でも、その夢を思い出すことが出来ない。
頭をポリポリとかく自分がいた。
「懐かしい思い出ね・・・。」
昔、お父様を出迎えに行った時の事を夢で見るなんて。
私はベッドから起き上がり、持っていた鞄を開ける。
そこの中から、何かを包んだ布を取り出し、中を開ける。
小さなガラスのウサギが、そこにあった。
あの後、お父様を出迎えた後、お土産に渡されたガラス細工のウサギ。
私は、そのガラスのウサギを見つめながら微笑んだ。




